時代錯誤の「羽田ハブ空港」構想何も知らない前原国交相
十月、降ってわいたように羽田空港ハブ(国際拠点)化構想が持ち上がった。「国際線は成田、国内線は羽田」という航空行政の大原則を百八十度転換するもので、提唱者の前原誠司国土交通相はさっそく産業成長戦略会議に諮る方針を明らかにした。だが、欧米生まれのハブ論が今の日本の航空政策に相応しいのか。体のいい他空港の整理縮小の方便にすぎないのでは。政治の影がちらつくこの議論、つぶさに見極めないといけない。
なるほど、前原氏に「見限られた」成田空港は今年に入り一度、機能停止状態に追い込まれている。三月に起きた米フェデックス貨物機の墜落・炎上で成田唯一の四千メートル級滑走路が二十六時間にわたって閉鎖され、「ジャンボ機が飛べない空港」の惨状は映像とともに全世界に伝えられた。
「焦った(成田国際空港会社の)森中小三郎社長たちは国交省工作に懸命で、反対闘争を懸念してなかなかゴーサインの出なかった第二滑走路の二千五百メートル延長工事を急ぎ、この十月にオープンさせた。これで年間発着回数を現在の二十万回から三十万回へと増やしアジアの覇権を奪取しようと踏み出したが、前原発言に出鼻をくじかれ、言葉を失ってしまった」と同社幹部は嘆く。
「仁川」には勝てない
「日本にはハブがない」という前原氏。その手本に挙げる韓国・仁川空港は四千メートル級の滑走路を三本備え、着陸料も安く、発着回数は年間四十万回。四十三カ国・百二十四都市との間で定期便が就航し、日本とは二十八空港と結ばれている。羽田?成田間のアクセスの悪さを嫌って、仁川を経由する日本各地からの海外旅行客は後を絶たない。
こうした旅客を奪い返すため、成田の国際線機能を羽田に統合しようというのが前原氏の狙いだ。十月下旬、記者団とともに来年十月に稼働する第四滑走路や新国際線ターミナルを見て回り、「二十四時間運用を実現させ、ハブ化をぜひ進めたい」と笑顔を見せたが、そんな単純な足し算で済む話だろうか。空港関係者が証言する。
「第四滑走路は長さ三千メートルにとどまり、大量の燃料を積む国際長距離便の離陸には不向き。実は、燃費がよく軽量な米ボーイングの次世代中型機『B787』の就航を当てにしていたんだが、開発が遅れている。来年十月段階では欧州便は飛ばせず、アジアへの近距離圏内にとどまってしまう。ハブ化なんてほど遠い」
そこで、早くも五本目の長距離滑走路を望む声が上がっているのだが、国交省によれば、その前には米軍が管制業務を行う「横田空域」の返還という沖縄米軍基地問題なみの日米交渉が立ちふさがる。周辺の川崎や浦安(千葉)の騒音問題も再燃するだろう。羽田のさらなる拡張は東京湾の第一航路も遮るため、船舶の行き来はまともにできなくなってしまう。東京湾の物流を止めてまで羽田をハブ化しようという覚悟が、果たして前原氏にあるのか。
「五本目をつくるなら建設費に漁業補償なども加えてさらに一兆円が必要だが、そんな税金投入などさらさら頭にない。というのも、来年度予算の概算要求で、地方空港を整備する特別会計を五千億円削減するつもりなんだ。地方空港をなくして、羽田がどうして国内線と国際線をつなぐハブになりえるのか。成田や関空までも切り捨てて、要は『羽田に一極集約すれば済む』という民主党政権の安易なコスト削減策でしかなく、まともなビジョンなど持ち合わせていないんだよ」(国交省担当記者)
実は、ハブ空港という発想そのものが旧聞に属することを前原氏は知らないのかもしれない。
過去に、ボーイング社が投入したジャンボ機B747に対抗しようと、フランス・エアバス社が総二階建てのA380を開発し、超大型航空機商戦が激しく繰り広げられた。その結果、大型機至上主義が生まれ、大量の燃料を積んで離陸する旅客機向けに四千メートル級の滑走路が求められるようになった。しかし定員が大幅に増え、目的地の違う乗り換え客を一度に詰め込んだため、乗り継ぎ拠点、すなわちハブ空港が必要とされたわけだ。
小沢=大橋ラインが暗躍か
ところが時代は刻々と変わっている。「ボーイングの中型機B777などは低燃費で航続距離が格段に延びている。以前なら米国からの便は成田でいったん給油した後、東南アジアの都市へ向かったものだが、今は直行便で行ける。B787も投入される段階を迎えている。つまり、航空機の近代化で二都市間を直行便でつなぐ『ポイント・トゥ・ポイント』が潮流となり、ジャンボ機でたくさんの旅客を運んで各地に散らすという重厚長大で建設費のかさむ『ハブ』方式は徐々に廃れようとしているんだ」(国交省関係者)。
こうした傾向はフランスのシャルル・ド・ゴール空港やドイツのフランクフルト空港のような巨大ハブ空港ですでに兆候が現れ始めているという。わずか八年前に誕生した仁川空港の好調ぶりを短いスパンで評価しても自ずと限界があるというものだろう。
日本を振り返ってみても、高い建設コストがかかるハブ空港建設は、国際イベントによる景気浮揚策とワンセットで語られてきたことを忘れてはならない。海外からの旅客を見込み、二〇〇八年の五輪招致を目指していた大阪は関西空港の二期工事を行い、〇五年の愛知万博には中部空港を開港させ、今回の羽田拡張は一六年の東京五輪開催を念頭に先行投資する形で行われた。
「国内で唯一、二十四時間運用ができ、四千メートル級滑走路を二本持つ関空は、大阪五輪が夢と消え、景気が衰えた今となっては一兆一千億円の有利子負債だけを抱えるただのお荷物空港。同様に、東京五輪を逃した『TOKYO』に世界の目が向くのか。羽田もやがて関空の二の舞いになる」(同)
こうしてみると景気対策の裏付けのない羽田ハブ化など、論外だろう。では、民主党政権が羽田にこだわるのはなぜか。ここで、日本の航空会社の対立と政治の相関関係がにわかにささやかれている。
「成田は自民党時代に国策でつくられただけあり、半官半民だった日航の牙城。全日空は後発組でしかなく、拠点を羽田に置き、設備投資を続けてきた。日航の経営難を機に、羽田に国際線を引き込もうと全日空が民主党に接近したようだ」(国交省記者)
これには背景がある。一九九〇年に北朝鮮から日本人抑留者の引き渡しを受けるため訪朝した小沢一郎・自民党幹事長(当時)のチャーター便をめぐり、全日本空輸が日本航空から逆転受注したことがある。「今の全日空の大橋洋治会長が小沢さんに密会し、直談判した成果。それ以来、差しで話せる仲」(自民党関係者)といわれ、この小沢=大橋ラインが羽田ハブ化構想でも暗躍したのではないかと取りざたされている。
いずれにせよ、羽田ハブ化には「国土の発展を度外視した安易な東京一極型を好む若造の発想」と、国交省次官経験者らも反発している。警鐘を鳴らしておく。
なるほど、前原氏に「見限られた」成田空港は今年に入り一度、機能停止状態に追い込まれている。三月に起きた米フェデックス貨物機の墜落・炎上で成田唯一の四千メートル級滑走路が二十六時間にわたって閉鎖され、「ジャンボ機が飛べない空港」の惨状は映像とともに全世界に伝えられた。
「焦った(成田国際空港会社の)森中小三郎社長たちは国交省工作に懸命で、反対闘争を懸念してなかなかゴーサインの出なかった第二滑走路の二千五百メートル延長工事を急ぎ、この十月にオープンさせた。これで年間発着回数を現在の二十万回から三十万回へと増やしアジアの覇権を奪取しようと踏み出したが、前原発言に出鼻をくじかれ、言葉を失ってしまった」と同社幹部は嘆く。
「仁川」には勝てない
「日本にはハブがない」という前原氏。その手本に挙げる韓国・仁川空港は四千メートル級の滑走路を三本備え、着陸料も安く、発着回数は年間四十万回。四十三カ国・百二十四都市との間で定期便が就航し、日本とは二十八空港と結ばれている。羽田?成田間のアクセスの悪さを嫌って、仁川を経由する日本各地からの海外旅行客は後を絶たない。
こうした旅客を奪い返すため、成田の国際線機能を羽田に統合しようというのが前原氏の狙いだ。十月下旬、記者団とともに来年十月に稼働する第四滑走路や新国際線ターミナルを見て回り、「二十四時間運用を実現させ、ハブ化をぜひ進めたい」と笑顔を見せたが、そんな単純な足し算で済む話だろうか。空港関係者が証言する。
「第四滑走路は長さ三千メートルにとどまり、大量の燃料を積む国際長距離便の離陸には不向き。実は、燃費がよく軽量な米ボーイングの次世代中型機『B787』の就航を当てにしていたんだが、開発が遅れている。来年十月段階では欧州便は飛ばせず、アジアへの近距離圏内にとどまってしまう。ハブ化なんてほど遠い」
そこで、早くも五本目の長距離滑走路を望む声が上がっているのだが、国交省によれば、その前には米軍が管制業務を行う「横田空域」の返還という沖縄米軍基地問題なみの日米交渉が立ちふさがる。周辺の川崎や浦安(千葉)の騒音問題も再燃するだろう。羽田のさらなる拡張は東京湾の第一航路も遮るため、船舶の行き来はまともにできなくなってしまう。東京湾の物流を止めてまで羽田をハブ化しようという覚悟が、果たして前原氏にあるのか。
「五本目をつくるなら建設費に漁業補償なども加えてさらに一兆円が必要だが、そんな税金投入などさらさら頭にない。というのも、来年度予算の概算要求で、地方空港を整備する特別会計を五千億円削減するつもりなんだ。地方空港をなくして、羽田がどうして国内線と国際線をつなぐハブになりえるのか。成田や関空までも切り捨てて、要は『羽田に一極集約すれば済む』という民主党政権の安易なコスト削減策でしかなく、まともなビジョンなど持ち合わせていないんだよ」(国交省担当記者)
実は、ハブ空港という発想そのものが旧聞に属することを前原氏は知らないのかもしれない。
過去に、ボーイング社が投入したジャンボ機B747に対抗しようと、フランス・エアバス社が総二階建てのA380を開発し、超大型航空機商戦が激しく繰り広げられた。その結果、大型機至上主義が生まれ、大量の燃料を積んで離陸する旅客機向けに四千メートル級の滑走路が求められるようになった。しかし定員が大幅に増え、目的地の違う乗り換え客を一度に詰め込んだため、乗り継ぎ拠点、すなわちハブ空港が必要とされたわけだ。
小沢=大橋ラインが暗躍か
ところが時代は刻々と変わっている。「ボーイングの中型機B777などは低燃費で航続距離が格段に延びている。以前なら米国からの便は成田でいったん給油した後、東南アジアの都市へ向かったものだが、今は直行便で行ける。B787も投入される段階を迎えている。つまり、航空機の近代化で二都市間を直行便でつなぐ『ポイント・トゥ・ポイント』が潮流となり、ジャンボ機でたくさんの旅客を運んで各地に散らすという重厚長大で建設費のかさむ『ハブ』方式は徐々に廃れようとしているんだ」(国交省関係者)。
こうした傾向はフランスのシャルル・ド・ゴール空港やドイツのフランクフルト空港のような巨大ハブ空港ですでに兆候が現れ始めているという。わずか八年前に誕生した仁川空港の好調ぶりを短いスパンで評価しても自ずと限界があるというものだろう。
日本を振り返ってみても、高い建設コストがかかるハブ空港建設は、国際イベントによる景気浮揚策とワンセットで語られてきたことを忘れてはならない。海外からの旅客を見込み、二〇〇八年の五輪招致を目指していた大阪は関西空港の二期工事を行い、〇五年の愛知万博には中部空港を開港させ、今回の羽田拡張は一六年の東京五輪開催を念頭に先行投資する形で行われた。
「国内で唯一、二十四時間運用ができ、四千メートル級滑走路を二本持つ関空は、大阪五輪が夢と消え、景気が衰えた今となっては一兆一千億円の有利子負債だけを抱えるただのお荷物空港。同様に、東京五輪を逃した『TOKYO』に世界の目が向くのか。羽田もやがて関空の二の舞いになる」(同)
こうしてみると景気対策の裏付けのない羽田ハブ化など、論外だろう。では、民主党政権が羽田にこだわるのはなぜか。ここで、日本の航空会社の対立と政治の相関関係がにわかにささやかれている。
「成田は自民党時代に国策でつくられただけあり、半官半民だった日航の牙城。全日空は後発組でしかなく、拠点を羽田に置き、設備投資を続けてきた。日航の経営難を機に、羽田に国際線を引き込もうと全日空が民主党に接近したようだ」(国交省記者)
これには背景がある。一九九〇年に北朝鮮から日本人抑留者の引き渡しを受けるため訪朝した小沢一郎・自民党幹事長(当時)のチャーター便をめぐり、全日本空輸が日本航空から逆転受注したことがある。「今の全日空の大橋洋治会長が小沢さんに密会し、直談判した成果。それ以来、差しで話せる仲」(自民党関係者)といわれ、この小沢=大橋ラインが羽田ハブ化構想でも暗躍したのではないかと取りざたされている。
いずれにせよ、羽田ハブ化には「国土の発展を度外視した安易な東京一極型を好む若造の発想」と、国交省次官経験者らも反発している。警鐘を鳴らしておく。

















