巻頭インタビュー

公開

「減反見直し」はなぜかき消えたか?本間 正義(東京大学大学院教授)
2009年5月号 連載〈巻頭インタビュー〉


 ---減反見直し機運がトーンダウンしています。

 本間 四十年続いてきた「減反」の見直しを石破茂大臣自らが言及したことで、山が動くかと思ったが、結局風さえ吹かなかった。石破発言を受けた自民党内、特に農業基本政策委員会に所属する農水族議員たちの反発はすさまじかった。農村票を奪われて大敗した二〇〇七年の参院選のトラウマを利用して党内議論で大きく巻き返しを図り、「減反堅持」の方針を早々と決定した。現状維持という選択肢は日本のコメ農業にはないのだが、参院選の自民大敗以来、農水族が息を吹き返し、農政が三十年「先祖返り」してしまった。

 ---族議員の反発はある程度予想されていたのではないですか。

 本間 石破大臣も農業政策に他省庁を巻き込もうと「六大臣会合」や「農政改革特命チーム」など開かれた議論の場を作ったが、特命チームの改革志向が弱く、うまく働いていない。農水族による農水省への締め付けは強まっており、その影響が農水省による特命チームの人選にはっきりと表れている。減反は国民から見て最も分かりやすい農政のひずみであり、その問題点はすでに十分に検証されているはずだが、こうした政治的圧力で見直し議論が後退したのは非常に残念だ。

 ---先の参院選では農村票が勝敗を分けたと言われています。

 本間 参院選では民主党がいかにも「戸別所得補償」のばら撒きで勝ったように報じられているが、あれは自民党が勝手にこけただけ。公示直後は、戸別補償などできるわけがないという声が農村の大勢だった。しかし、松岡大臣の自殺や途中、農水大臣が次々と替わるなど自民党の不祥事が続き、その失望感で票が民主党に流れた。選挙後の自民党もばら撒きに走ったことで、日本の農業政策は一気に後退した。

 ---一体、政治は何をしているのでしょうか。

 本間 企業は利潤追求が本分のごとく、政治家は選挙しか考えておらず、日本の食糧や農業の未来を本気で考えていない。自民党でも民主党でも、減反政策は選挙の道具に堕してしまっている。所詮、政治は農村を集票マシーンとしか考えていない。残念ながら、これは農村から票が取れるうちは、たとえ農業が自滅へと進もうとも変わらない。小選挙区制の導入以来、農村票だけで受かることはないが、落とすことはできるようになった。よって、どの議員も農村を敵に回せない。今こそ農村票に頼らない都市政党が必要だが、本来その役割を担うはずの民主党がばら撒き競争の火付け役となっている。

 ---来る総選挙ではばら撒き合戦も懸念されます。

 本間 農家にとっては美味しい選挙になるだろう。しかし、ばら撒きに惹かれる選挙となっては、日本のコメ農業は安楽死を待つばかりだ。減反をめぐる政治の茶番は国民に見えすぎている。農家もばら撒きで自分たちの将来が開けるとは思っていない。

 ---近い将来、WTOなどの関税削減交渉も待ち受けています。

 本間 だから日本の農業改革に残された時間は少ない。競争力がないままの市場開放の悲劇は、昨年暴動に見舞われた中南米の例を見るまでもない。このままでは、いずれ品質格差をもってしても日本のコメは海外米に太刀打ちできず、後継者も育たぬまま、じわじわと衰退の一途をたどるしかない。

〈インタビュアー 編集部〉


PAGE TOP