巻頭インタビュー

公開

地方の活性化は「不可能」伊藤 滋
2009年3月号 連載〈巻頭インタビュー〉

 ---地方、とりわけ農村や漁村の衰退が何を施しても止まりません。

 伊藤 国立社会保障・人口問題研究所が公表している日本の将来人口推計によると、秋田や高知といった都市ですら二〇三五年には人口が半減すると予測されている。この研究所の予測は国のあらゆる統計の中で最も正確であり、私自身が地方を見て回った実感でも人口減少の流れは止められない。日本人が東京から名古屋、大阪、瀬戸内を経て福岡に至る太平洋ベルト地帯に居住を求める傾向は今後も変わらない。

 ---それはなぜですか。

 伊藤 少なくとも東北地方や日本海側の厳しい冬を知っている人は、比較的温暖で利便性も享受できる都市部へ移住したいという気持ちを持っている。これは政策では止められない。太平洋ベルト地帯を目指して人が移り住む、この人口移動の傾向は戦後一貫して続いている。

 ---では、地方はこのまま「安楽死」を待つしかないのでしょうか。

 伊藤 死にはしない。地方の人口半減と前後して高齢化も一段落するので、減少速度が弱まる。さらに、長子が家を継ぐという伝統は、意外に根強く地方に残っている。これが農村や漁村の人口を維持する要因として働くので、半減後は増えもしないが減りもしない「低位安定」の状態を維持するだろう。しかも、その頃には都市部の人口もある程度保たれているので、都市から地方への所得移転のバランスを取ることで、地方は食べていける。

 ---それでも政治家や自治体、マスコミは地方の活性化を叫び続けています。

 伊藤 いわゆる地方活性化策には一定のアナウンス効果がある。誰かが声高に叫ばなければ地方の生活水準や人口が急落してしまう。活性化策に衰退を止める効果はないものの、スピードを一時的に緩めることはできる。実際、今、成功していると言われる活性化策もやがて、緩衝作用しかなかったことが明らかになるのではないか。ただ、これらの施策を続けることで三十年後の人口半減時に向けて軟着陸はできる。

 ---有効な地方維持策は何ですか。

 伊藤 コンビニと携帯電話が行き渡った地方で、そこに生きる人がなお不安を覚える医療や介護の問題を解決する政策が必要だ。医師の都市偏在が問題であれば、例えば五年ごとのローテーションで地方に医師を派遣するシステムなどを構築する。今から準備すれば八十歳代人口が爆発的に増える二十年後までには上手く回っているはずだ。介護の充実は地方の雇用にもつながる。こうした政策は国土交通省の地方向け公共投資より有効だろう。

 ---財源はどうしますか。

 伊藤 無駄が多い農水省の予算をもっと活用すべきではないか。何かと批判される役所だが、皮肉にも戦後一貫して、農村や漁村に金を回し続ける働きだけはあった。国交省の予算が巨大プロジェクト型だとすれば、農水省のは全国の津々浦々に細かく行き渡る「母親のような予算」。しかも農水官僚はこうした多品種低額予算を獲得するプロだ。これらを地方の低位安定に利用しない手はない。道路やダム建設には厳しい目を向ける都市の住民も、要らない農水事業を廃止したうえで、地方のお年寄りを助ける予算にすれば理解が得られる。限界集落を都市の金で維持することは合理的な欧米では考えられないが、日本では可能だと思う。

〈インタビュアー 編集部〉


PAGE TOP