巻頭インタビュー

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外国での日本への評価は低くない谷内 正太郎(外務省顧問、東京大学大学院客員教授)
2008年6月号 連載〈巻頭インタビュー〉

 ---日本人は今、総じて憂鬱状態にあるようです。特に国際社会で沈没してしまった、という意識が強い。

 谷内 世界の人々の日本への評価は決して低くなく、関心はむしろ強まっていると私はみます。例えば、日本語能力検定試験を受ける外国人の 数は五十二万人に上る。これは英語のTOEIC、TOEFLの受験者数に次ぎ、フランス語、ドイツ語を上回る。アニメやマンガなど「クール・ジャパン」へ の若者の関心は高まっています。

 ---それにしても外交舞台では日本素通りがまかり通っています。例えばイラン問題の交渉当事者にはドイツがP5(安保理常任理事国五カ国)と同じ資格で参加しているではないですか。

 谷内 あれは欧州連合(EU)の対イラン工作に英仏独の枠組みがあったからです。それをP5と合体させたからああいうことになった。まあ日本もイランとの経済的、歴史的関係からして有資格国ではあるのですが......。

 ---流暢な英語で相手を論破するくらいの交渉力を持った人材がどんどん出なければダメだと、日本通のエズラ・ボーゲルがわが国を叱っています。
 谷内 なるほど、金子堅太郎の故事がありますね。明治初期にハーバードに留学した福岡藩士です。そこでセオドア・ルーズベルトと同級に なった。帰国後、明治政府に仕えた金子は日露戦争が起こると再渡米し、大統領になっていたルーズベルト相手に、日本に有利な講和仲介を約束させたという。

 ---第二、第三の金子はいない。

 谷内 しかし、外交はそんな目立つ仕事ばかりではない。国際社会で名誉ある地位を占める、これが憲法にある日本の国家目的でしょう。その ため営々と経済協力をやってきた。今、中国の援助攻勢が喧伝されているけれど、あちらは大統領官邸を建てたり、議会の立派な建物を贈呈したりしている。日本の経済協力は、橋や道路をつくり井戸を掘る、国民生活のためのインフラ整備です。それが現在のアジア経済興隆の一つの基盤になったことを、中国を含むア ジア諸国が認めています。

 ---陰徳顕れるですか。それにしても谷内さんが次官時代に苦労された安保理常任理事国入りの運動は世界の大方の国から振り向きもされなかった。

 谷内 日本がもっと国際貢献、特に国際平和協力に積極参加できる態勢をつくらなければいけないと痛感しましたね。カナダにしろ北欧諸国にしろ、すぐれた平和希求国ですが、国際平和の構築任務をきちんと果たしている。

 ---日本が世界の中でどういう国家像をめざしていくべきかを示し、導く指導者がいない?

 谷内 日本のあらゆる領域で人材を輩出させなければいけない。遠回りでも教育が大事だと身にしみて感じます。吉田松陰は片田舎のような長 州・萩の松下村塾に約八十人の青年たちを集めた。そのうち過半数が明治国家を支える人材となりました。時代の危機状況があり、師弟に危機意識があり、師匠 の松陰には人間の特性を見抜く鋭い目があった。伊藤博文には「周旋の才あり」として政治家への道を進ませたような。私は今、この「状況」「意識」「指導 者」という三条件を現在の日本に当てはめて考えています。

 ---大学院で教鞭をとるのも、現代の松陰たらんと......

 谷内 とてもとても。私にできればと思うのは、若者の心にイグナイト(点火)することだけです。

〈インタビュアー 本誌・伊藤光彦〉
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