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Book Reviewing Globe 458

ドイツとロシアの「特殊関係」

2022年7月号

 おそらく、ウクライナ戦争にもっとも衝撃を受けた国はドイツだっただろう。政治体制の異なる専制主義国、ロシアとの「貿易を通じた変化」による共存を目指し、同国との間でガスパイプライン「ノルドストリーム」を敷き、その低廉なエネルギー価格による輸出競争力の優位性を享受してきた。だが、ウクライナ戦争は、ドイツのその「世界でもっとも成功した地経学国家」の土台を根底から覆した。
 ドイツは世界のどこよりもロシアのことは自分たちがよく知っているという態度を示してきたものである。プーチンに対する西側の「誤解」を叱責するかのように、ゲアハルト・シュレーダー元首相はプーチンを「非の打ちどころのない民主主義者」と形容したことがある。それもまた大いなる錯覚、いや幻覚だった。ドイツの政治指導者は米国を批判することには熱心だったが、ことロシアとなると奥歯にものがはさまったように寡黙になった。シュレーダーはブッシュ政権のイラク戦争に対してはロシアと一緒になって批判したし、アンゲラ・メルケル前首相はジョージアとウクライナのNATO加盟に前向きだったブッシュ政権と明確に一線を画した。ロシアを刺激するのはよくない・・・