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経済

イオンカードで大量「過剰請求」

システム障害「十年放置」の犯罪的所業

2016年4月号公開

 「利息再調査にともなう返金対応マニュアル」―その内部資料には「社外秘」のマークとともに、こんなタイトルがつけられている。
 イオングループの金融事業を統括する持株会社、イオンフィナンシャルサービス(FS)。その傘下の中核子会社で、クレジットカード事業を展開するイオンクレジットサービス(CS)が昨年十二月十五日に作成した資料だ。
 すべてが「信用」で成り立つ金融ビジネス。その基盤ともいえる「信用」をまさに根底から揺るがすような不祥事がイオンCSで露見したのは、二〇一五年四月のことだった。東北、北海道を管轄区域とする同社北日本管理センターが顧客に対し、カード利用に伴う利息を過剰に請求していたことが、当の顧客からの指摘で明らかになったのだ。
 事態を重く見た監督当局の金融庁はイオンFSの報告を受けるとともに、他にも誤った利息請求が行われている事案はないか、過去十年間に遡って調査するよう指示。その結果、何と約二千四百件にものぼるデタラメな利息請求事案が見つかったのである。こうして今年一月から実施することになった顧客への取り過ぎた利息の返還手続きに備えて作成されたのが、冒頭の“極秘”マニュアルというわけだ。
顧客データのあらゆる数字に〝異変〟
 なのにイオンFSやイオンCSは、こうした大量誤請求判明の事実を一切表沙汰にするつもりはないようだ。それはマニュアルに盛り込まれた、顧客対応に関する想定問答集をみれば一目で分かる。「本件は公表されるのですか」という想定質問に対し、マニュアルでは「該当するお客さまにご連絡いたしますのでホームページなどでお知らせの予定はありません」と応答するよう指示しているからだ。要は問題を当事者間で処理し、実質的に闇から闇に葬り去ってしまおうということである。
 何故か―。実はこの誤請求事件の裏には、単なる事務的なミスや錯誤といった、いわば過失では済まされない「悪質な作為と不作為」(金融筋)が潜んでいるからだ。過去十年以上にわたって欠陥システムを放置し、あまつさえそれを使い続けているという、「顧客や株主に対する裏切り行為として経営責任をも問われかねない」(法曹関係者)犯罪的事実が―である。
 十一年前の〇五年三月三日、イオンCSでシステムの更新が実施された。これは当時、社会的問題ともなっていたグレーゾーン金利の撤廃と総量規制に備えたもので、システムの根幹となるホストコンピューターに複数金利機能を追加構築したのだ。
 ところがその直後から“異変”に見舞われる。顧客への請求でミスが続出。ショッピングのリボ払いやキャッシングの返済の際の計算が正確に行えなくなったのだ。顧客データのあらゆる数字がおかしくなり、社内は大混乱に陥ったという。
「リボ払いに変更したにもかかわらず正しく処理されない」「繰り上げ返済が反映されず、過大な利息が請求される」「利用額以上の金額が口座から引き落とされる」……。おおよそまともに業務ができる状態にないばかりか、システム障害は翌四月に向けてさらに深刻化。社内文書によれば、問題発生件数はシステム更新当日から四月一日までで六千七百三十一件にも達した。
 イオンCSでは大慌てでシステムの改修に着手。同時に手作業でデータの修正を試みたが、問題発生件数に追い付かず、事態は六月になっても収束不能のまま。なかには、一円もカードを使わず、融資残高がないにもかかわらず顧客に請求を行うという信じがたいケースまで発生していた。それでも七月にはようやく事態が沈静化しはじめたとされるが、この間、確認できただけで一万五千件を超えるミスが発生していた。
 タチが悪いといえるのは、イオンCSがこうした事実を公表せず、前述のマニュアル同様、案件ごとの顧客対応で済ませてしまったことだ。そのうえ金融庁にすら報告しなかったとされる。しかもシステム障害を引き起こした原因の究明や再発防止のための抜本的な改修を行わず、社内向けにも事態を隠蔽する方向へと動いたのである。そしてこのことが昨年四月の誤請求へとつながっていくことになる。
 というのもシステム上の抜本対策を怠り、事実を覆い隠してしまったことで、イオンCSは二つの問題を抱え込んだまま、日々のオペレーションを行っていかざるを得なくなったからだ。①システム障害に対応して行った手作業によるデータの修正が果たして正確だったのか分からない、②欠陥システムをそのまま使い続けなければならないハメになっている、という問題である。①から具体的に説明しよう。
 前述のように〇五年のシステム障害では顧客データのあらゆる数字が壊れてしまった。これを以前のデータや顧客からの入金履歴、イオンCSの引き落とし履歴などと照合して正しい数字に修正されたことになっている。しかしその修正もデタラメだった可能性が捨て切れないのだ。
 例えばある顧客の四月二日時点の帳簿にはシステム障害の影響であり得ない数字が並んでいる。ショッピングの手数料として「マイナス九万八百三十二円」などと計上されているのだ。つまりイオンCS側が顧客にカネを払うということになる。明らかな間違いであり、この顧客データは手作業で修正されたハズだった。ところが一カ月後の五月二日の帳簿では、利用残高が一万三千八百八十五円であったにもかかわらず、請求金額はこれを大きく上回る二万三千九百十円になっているのだ。要するに今度は顧客の口座から一万円超も余分に引き落とされることになるというわけだ。
 データ修正を誤ったうえにシステム障害が重なって、一体何が正しい数字か判別できなくなってしまったのである。こうした事例はイオンCSのサーバーに保存されている大量のデータからゾロゾロと出てくるが、「全体で何件あるのか見当もつかない」(事情通)とされている。
利息計算システムは壊れたまま
 次に②。イオンCSではシステム障害に対応して確かにリボ払いの引き落としなど一部の手直しは行っている。ただ肝心の利息計算システムはいまだ放ったらかしのままだ。このシステムは「利息の日割り計算ができない」(関係者)という。顧客がキャッシングの決済期限の前に一部を繰り上げ返済しても、決済日になぜか丸々ひと月分の利息が徴収されてしまったり、融資残高が増えてしまったりするのだ。繰り上げ返済日に手作業で日割り計算をすればこうした事態は回避できるが、今度は決済日の利息がゼロになってしまうらしい。
 同社ではこうした問題にシステム障害以降、すべて手作業で対応してきたというから呆れ返るではないか。しかも事の隠蔽を図ってきたために、全社統一的な対応マニュアルすら作成していなかった。これでは昨年四月まで誤請求が明るみに出なかったこと自体が不思議なくらいだ。
 昨年四月の誤請求に関して金融庁が過去十年分にわたって調査するよう指示したのは前述の通りだ。過剰請求などの時効は十年と定められているからだ。しかしイオンFSとCSが社内に特別チームを設置して調査を行ったのは〇五年四月分からではなく、同年八月分からだった。前述した通り七月まではシステム障害の真っただ中で、データが正しいのかさえも分からないからだ。しかも同四~七月までの大混乱時の誤請求分の時効成立を待っていたかのようなタイミングで冒頭の返金対応マニュアルが作成され、社内の関係セクションに配布された。
 そしてそのマニュアルの中にはぬけぬけと次のような想定問答まで記載されているから驚く。
顧客「いつこのこと(誤請求)が分かったのですか」
CS「昨年十一月に入力操作のミスが判明し、調査を開始しました」
 明らかな大噓である。
顧客「なぜ十年前までしか調査しないのですか」
CS「大変申し訳ありませんが、法律により時効期間が十年となっております」
 何ともにべもない、そしてつれない応対ではないか。今回の大量誤請求は、十分なシステムの改修を行わず、問題を放置してきたイオンCSの背信的行為が引き起こした疑いが濃厚だ。顧客はこうしたいわば一種の不法行為によって財産権を侵害されたととらえられなくもない。その場合、時効は二十年だ。
約一千件は「追跡不可能」で葬る
 関係筋によると、実はイオンCSは誤請求をめぐる一連の調査で、約一千件の事案について「追跡不可能」として闇に葬っていた疑惑も浮上しているらしい。だとしたら調査での判明分と合わせて約三千四百件。これだけでも禍々しいといえる数字だが、グループの一部には「〇五年問題」の深刻度からみて「なお大量の誤請求事案が隠れているのでは…」として眉をひそめる向きもある。
 さらに問題はグレーゾーン金利による過払い利息返還にも飛び火しかねない。返還請求する利用者に誤った履歴を開示していた可能性も否めないからだ。多くの消費者金融業者でもはや下火になりつつある過払い利息問題が、イオンCSにはなお地雷のように埋もれているということになる。
 イオンは総合スーパー事業の不振にもがき続けている。二月には一六年二月期の業績を下方修正。前期比一%増の四百二十五億円としてきた純利益は五十億円と、同八八%もの大幅減益に沈む。金融事業でのデタラメぶりと杜撰さが利用者の反発を買い顧客離れが加速するようなことになれば、さらなる苦境に立たされるのは必至だ。


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