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欧州「排出量取引」は問題続出

相次ぐ「犯罪」で市場に疑問符

2011年4月号

 ヨーロッパ連合(EU)が地球温暖化防止の「切り札」として、二〇〇五年に導入した排出量取引制度(ETS)が、重大な危機に陥っている。今年に入って、オンライン上で「排出量」を盗み取る事件が相次ぎ、大半の国で取引停止に追い込まれたためだ。日本の民主党政権は、「排出量取引制度」導入を模索してきたが、手本となる欧州のつまずきは、導入反対論をさらに勢いづかせそうだ。
 今年一月、チェコの首都、プラハ中心街にある事務所に、「爆弾を仕掛けた」という電話が入った。ビル全体の職員らが一斉に三時間以上退避したものの、警察は何も発見できず、爆弾予告はいたずらとして処理された。
 だが、標的になった事務所は、チェコの排出量取引を管理する企業だった。翌朝から、この事務所には、「我が社の排出枠(一排出枠は、温室効果ガス=二酸化炭素一トン分)が、コンピューターの画面上から消えている」という苦情が殺到した。同社は「爆弾予告をした人物と、排出枠を盗み取った人物は共犯」と、警察に届け出たが、すでに数十万の排出枠は公開市場で売り飛ばされていた。排出枠はすべて電子登録なので、「画面から消えた」という・・・