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社会・文化

指揮者とは過酷な「肉体労働者」

小澤征爾の「完全復帰」なるか?

2011年5月号

 去る二月、アメリカ・シカゴからぞっとするニュースが飛び込んできた。米国で五指に数えられる名門オーケストラ、シカゴ交響楽団の音楽監督に昨年迎えられたばかりのイタリア人指揮者、リッカルド・ムーティが、リハーサル中に突然気を失って指揮台から転落し、顔の骨を折る怪我をしたのだ。骨折そのものは大したことがなかったものの、指揮中に気を失うとは穏やかでない。今年七月で七十歳になるマエストロの健康状態に一躍注目が集まった。検査の結果、原因は心臓の不整脈と判明。ペースメーカーを埋め込む手術を受けて一カ月後には指揮台に復帰し、大事には至らなかったが、世界中の音楽ファンをひやりとさせた。
 米国では大物指揮者の「受難」が続いている。三月にはやはり名門のボストン交響楽団音楽監督のジェームズ・レヴァインが健康問題を理由に年内の辞任を表明した。ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の芸術監督も長年務めるレヴァインはムーティより二歳年下で米国楽壇の大御所的存在だが、二〇〇六年、コンサート終了後に指揮台から転落して肩に大怪我をして以来、健康不安が絶えなかった。特に昨年、背中を手術してからはコンサートのキ・・・