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連載

皇室の風33

二つの大震災と皇室
岩井克己

2011年5月号

 東日本大震災で天皇が発したビデオ・メッセージについて前号で書いたら、財団法人大倉精神文化研究所(高井祿郎理事長)が定期刊行物『大倉山論集第五十七輯』を送ってくれた。発刊は今年三月十四日。奇しくも大地震と津波に福島第一原発の水素爆発が加わって、未曽有の危機が始まった日付である。
 巻頭論文は大正大学教授堀口修の「関東大震災と皇室及び宮内省」だ。宮内庁書陵部所蔵の「宮内省臨時災害事務紀要」や東宮職「震災録」などの公文書史料をもとに、関東大震災の時の皇室と宮内省の動きを総合的にまとめている。
 堀口教授と同研究所の許しを得て、論文のデータなどを基に往時の動きを紹介しよう。もちろん誤りがあれば筆者の責任である。
 

〈被災〉
 一九二三年(大正十二年)九月一日午前十一時五十八分、マグニチュード七・九の大地震が発生した時、摂政宮だった昭和天皇は皇居の宮殿で執務中で、直ちに正殿横の中庭に避難し、さらに吹上御苑の観瀑亭に移って、午後三時半に赤坂離宮に帰還した。東京が火炎に包まれる中、翌二日に山本・・・