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連載

続・不養生のすすめ5

「老化防止」の虚と実
柴田 博

2011年5月号

 人間誰しも、いつかは老いる。大抵の人は、歳をとることを否定的に捉える。たしかに運動能力などの面で考えれば、老化は人としての衰えを意味する。しかし、加齢は失うばかりではない。老境に至ることで、人は円熟し、味わいを増す。得るものも大なのだ。
 十年ほど前に九十三歳で亡くなった指揮者の朝比奈隆さんは、死去の二カ月前まで演奏会でチャイコフスキーを振っていた。まさに生涯現役を貫いた人である。ご遺族によると、最期の言葉が「引退するには早すぎる」だったそうだから、恐れ入るではないか。九十五歳まで音楽活動を続けた個性派指揮者、レオポルド・ストコフスキーを意識し、高齢記録を抜きたいと公言もしていた。それが、ただ生きた長さの競い合いでないことは、言うまでもない。
 朝比奈さんの人生の幕引きは「ピンピンコロリ」のお手本といえる。日頃から健康に気を使っていたのは確かだが、その目的はただ一つ、音楽のためであった。健康は、指揮台に立って、目指す芸術と向き合うための手段でしかなかったのだ。長生きすることが目的になってしまった人とは、まるっきり正反対である。
 彼は米寿の時に、クラシッ・・・