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社会・文化

絶滅の危機に瀕する「白砂青松」

電力会社の水力ダムが元凶

2011年8月号

 キュッ、キュッ、キュッ。  仙台湾に位置する十八鳴浜(宮城県気仙沼市)や阿武隈川河口(宮城県亘理郡亘理町)を歩くと足元からはこんな音がする。砂と砂とが擦れ合う懐かしい音だ。  先の東日本大震災の大津波で水没を免れた海浜の背後には数少ないクロマツ林が残り、「鳴き砂」も辛うじて健在だ。現在、日本国内には百九十平方キロメートルの砂浜と百カ所以上の「鳴き砂」浜があるといわれる。  四方を海に囲まれたわが国では、古来より海岸林の大半は松林であり、浜辺の白砂と青々とした松林が形作る景観「白砂青松」を保持してきた。浦島太郎や天女が登場する白砂青松は『万葉集』や『源氏物語』にも欠かせない、いわば日本人の心のふるさとだ。  しかし、それらはいま日本各地で絶滅の危機に瀕している。  国中の自然海浜が波で抉られ、消滅を続けているからだ。一千年かけてつくられた砂浜がわずか二十年で変形し、今なお毎年一・六平方キロメートルずつ消えている。各省の取り組みも砂浜保護は後回しで、二の次だ。 「砂嘴(砂州)で、まともな所なんて日本に一つもないです……」  わが国を代表する〈渚〉の研究者はそう嘆く。  天・・・