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連載

皇室の風38

ウケヒ神話の隠れた意図
岩井克己

2011年10月号

 


元十文字学園女子大学教授溝口睦子は言う。

「五世紀に始まるヤマト王権時代は、タカミムスヒに象徴される北方系の外来文化が、アマテラスに象徴される弥生以来の土着文化の上にかぶさって『二元構造』をなしていた時代である」(『アマテラスの誕生』)  

その国家神・皇祖神がアマテラスへと“逆転”した。  

こうした見方は、これまでも古代史学者、民族学者らの一部では断片的には指摘されていた。溝口の独自性は、古代氏族系譜の研究によって両神を担う氏グループの構造を析出し、皇祖神転換の裏には、卓越した戦略家・天武天皇の国家統一のための氏族政策という深謀遠慮があったと、総合的に浮き彫りにしたことにある。  

白村江の敗戦で対外危機感が高まるなか、天智天皇が大化の改新で着手した律令国家形成への途次、外征失敗と内政改革に対する豪族らと草の根の民の不満と怨嗟の爆発が「壬申の乱」の背景にあったと推測される。大津京政権に対する天武の勝利は、東国などの地方土着豪族・・・