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社会・文化

《日本のサンクチュアリ》ままならぬ「尊厳死」

病院では安らかに死ねない

2011年12月号

 人間、誰しもいつかは死ぬ。できるだけ安らかに最期を迎えたいというのは、万人共通の願いだ。ところが現代医療の進歩により、無益な延命措置がとられることで、望まぬ「生」を押し付けられ、不当な苦痛を強要される患者が少なくない。医療現場からは、安らかに死なせてもらえない患者たちの悲痛な叫びが聞こえてくる。

 尊厳死とは、人間が人間としての尊厳を保って死に臨むことである。我が国でも一九八〇年代から議論が続けられてきた。九一年には東海大学、九六年には京都府の国保京北病院で積極的安楽死が行われたことが発覚し、社会問題化した。東海大学事件では主治医が殺人罪で起訴され、裁判を通じて積極的安楽死が許容される四要件が確立した。積極的安楽死は、この裁判で一段落したと言っていい。

 二〇〇〇年代に入って問題化したのは、消極的安楽死、つまり延命治療の中止だ。この問題をめぐり社会はいま、迷走している。

医師は恐ろしくて関われない


 延命治療の中止が最初に議論されたのはがん治療だ。九〇年代前半まで、「患者の死亡は医療・・・