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連載

続・不養生のすすめ18

認知症予防の誤解と正解
柴田 博

2012年6月号

 世はあげて健康ブームである。社会参加も趣味もすべて健康のため、仕事を続ける理由も健康のためと答える中高年が少なくない。健康には身体的な要素も含まれるが、認知症の予防に対する関心がつとに高い。このような健康志向の狂騒ともいえる風潮を「健康オタク」と邪揄する向きもあり、まるで「健康のためなら死んでもよい」というブラックユーモアがあてはまる世相だと皮肉る人も少なくない。

 筆者は老年学を専門としている関係もあり、これらのテーマに関する取材をよく受け、テレビや週刊誌にもコメントすることが多い。著書でもこれらの問題を、自分たちの研究も紹介しつつ論じてきている。これらの結果をもう一度、整理しておくことは必要なことと考え、今回のテーマに設定した。

 ずばり、今日の風潮は、目的と手段が倒錯しているというのが、筆者の結論である。健康問題に火をつけたのは、一九八六年カナダで開かれたヘルスプロモーションの会議が唱えた「オタワ憲章」であると考えている人が多い。

 この考えは必ずしも間違ってはいない。欧米にヘルシズムということばが生まれたのもこ・・・