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連載

本に遇う 連載158

サカイはなぜ裏切ったか
河谷史夫

2013年2月号

 歴史に「もし」は禁物というけれど冗談ではない。「歴史は多くの場合に於いて悔恨の書であった」と柳田国男は言った。「歴史は人類の巨大な恨みに似ている」とは小林秀雄の言だ。過去を顧みて「もし」を発しないほうがおかしい。

 先の戦のけりのつけ方には多くの「もし」がある。ミッドウェーの惨敗(一九四二年)、ガダルカナル撤退(四三年)ときて、すでに負けは見えていたろう。四四年のインパール作戦に敗走し、マリアナ沖海戦に大敗した。そのあたりでもし停戦交渉に入っていれば、本土空襲はなかったかも知れない。

 遅くとも四五年三月の硫黄島失陥でもし敗戦を認めていたら、四月からの米軍の沖縄上陸は中止されたであろう。せめて見殺しにした沖縄の犠牲のうえに、もし白旗を掲げておれば、ヒロシマ、ナガサキは避けられたに違いない。

 後知恵によって批判しても空しいが、戦争を早く終わらせたいと思う人はいた。「裏切り」と言われ、国賊よばわりされることも覚悟のうえで行動に及んだ人がいた。

 二〇〇六年十月十五日付の静岡新聞に一枚の写真が載った。・・・