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経済

備蓄放出石油で「元売り」がボロ儲け

国有財産で暴利を貪る国賊業界

2026年5月号公開

 石油元売り最大手、ENEOSの系列特約店の間には、今や不信と不安が渦巻く。
「なんだ、これは」
 4月15日、毎週木曜日に改定される燃料油の基準価格(卸売価格)の連絡に前後し、一通の文書が送られてきたのである。「今回の基準価格改定に関して」と題するA4判2枚のそれは、不得要領で、何を意味しているのか分からない。
 多くの特約店はENEOSの各支店に問い合わせたが、支店担当者も内容を把握しておらず、ENEOS本社による一方的な通告だった。文書は中東情勢緊迫に伴う原油価格の高騰、フレート(船荷運賃)・保険料の上昇を訴え、その上でこんな文言が綴られていた。
〈週次改定においては「国際的な原油市況」の変化幅を、ターム/スポット調達原油の比率分だけ反映いたします〉
 翌16日の木曜日から適用される基準価格は、レギュラーガソリンが揮発油税を含めて1㍑当たり165・7円、前週比9・5円の低下だった。いや、本来ならもっと値下がりしていただろう。
 実は、16日仕切り分から政府が放出した国家備蓄原油を精製した燃料油の出荷が始まったのだ。しかし、それは基準価格に十分反映されていない可能性がある。文書は、週次改定はターム(長期契約)原油、およびスポット(即時決済)原油の市況変動に合わせて行い、国備原油については〈総合的に勘案して月次で反映〉するとしている。一体どういうことか―。ある特約店幹部が鼻白んだ。
「つまり、高騰した原油価格に比べ割安な国備原油の差益はすべて還元しない、元売りの懐へ落ちる、ということだろ」

ENEOSの許し難い所業

 2月28日の米国とイスラエルによるイラン空爆以来、中東情勢の緊迫は深刻化し、ホルムズ海峡の封鎖が解除される見通しは立たない。経済産業省が国備原油の順次放出に踏み切ったのは3月26日だった。
 放出量はとりあえず30日分の約850万㌔㍑、放出総額は約5400億円。これを、ENEOS、出光興産、コスモ石油、太陽石油の元売り4社へ入札ではなく、緊急時の随意契約で払い下げた。その1㍑当たり単価は63・5円程度だ。
 しかし当時、すでに中東ドバイ原油のスポット価格は1バレル100㌦を超え、3月19日には最高値169・8㌦を記録していた。最近の円安局面(1ドル=159円)で1㍑換算すると170円近くになる。比べて63・5円の国備原油は、当時の原油価格より約100円も安く放出されたのである。
 なぜなら、経産省は国備原油の払い下げに当たり、2月積みの中東産油国の公式販売価格(OSP)を指標にしたからだ。2月積みOSPはイラン危機の勃発前に大半が契約されており、60㌦台にとどまっていた。国備原油はつまり、平時の価格で放出されており、そこから得られるガソリンの精製マージンはいくらになるか―。
 1㍑当たり63・5円の原油に精製コスト15円、輸送費とタンクチャージ3円、さらに揮発油税28・7円を加えると、卸売原価は110・2円。これに対し、ENEOSの4月16日仕切りの基準価格は165・7円だ。精製マージンは実に55円を超える。実際は国備原油以外の原油も精製されているため、卸売原価は一概に把握できないが、それでも、前出の特約店幹部は義憤を募らせた。
「暴利に近いマージンだ。国備原油はまさしく国有財産であり、それをたった一通の文書で私するようなことが許されるのか。それとも、ENEOSの行動は役所への当て付けか」
 実は、経産省のガソリン補助金が事態を複雑にしているのだ。

「安売り」に走る元売り系列店

 累計8兆1719億円―。昨年12月、揮発油税の暫定税率廃止に伴って終了したガソリン補助金だが、過去4年間で膨大な国費が投じられてきた。この愚策を、高市早苗首相はイラン危機を受けて「小売価格を全国平均170円程度に抑制する」と発言し、3月19日から再開した。累計の予算規模は9兆円を優に超える見通しだ。
 ただし、経産省は再開に当たって補助金の算定基準を、急騰している中東ドバイ原油から割安な北海ブレント原油へ変更したのである。この結果、ドバイ原油を主力とする元売り4社は原油・精製コストと小売価格170円の差額を補助金で補填し切れなくなり、一部は持ち出しとなった。よほど腹に据えかねたのだろう。
〈石油元売り、思わぬ負担〉
 4月10日付の日本経済新聞には、元売りのリークとみられる記事の大見出しが躍っていた。日経記事によれば、補助金再開1カ月で元売り4社の自己負担額は2千億円になるという。これを取り戻すため、基準価格への国備原油の差益還元を抑制しているとすれば、姑息と言うほかない。では、ENEOSを例に取り、国備原油の恩恵を試算してみよう。
 補助金の算定基準となったブレント原油は4月中旬、1バレル95㌦を中心に推移していた。1㍑換算でほぼ95円だ。比較すると、63・5円で放出された国備原油は約30円の差益を含んでいると言える。ENEOSの白油(ガソリン・軽油・灯油)3品の年間販売量は4400万㌔㍑規模であり、これに30円を掛けると、差益は年1・3兆円に達する。1カ月で1100億円である。
 この差益が4~6月と続けば3300億円。ENEOSホールディングスの前期25年度の営業利益計画2900億円を上回る。「3カ月で1年分を儲ける荒稼ぎ」と風評が立ったとき、ENEOSは世論の十字砲火を浴びるに違いない。果たして5月上旬に予定される国備原油の放出第2弾はいくらで払い下げられるだろうか。
 経産省は「次の指標となる3月積みOSPは2月積みより高騰する」とし、差益縮小を見込むが、ホルムズ海峡の封鎖が続く中、そもそも中東原油の新規船積みがどれほどあるか―。
 原油の調達不安、価格高騰は先が見えない。にもかかわらず、元売りの販売子会社や一部の系列特約店は乱売に走っているのだ。その誘因は、またしてもガソリン補助金である。
 石油情報センターが毎週発表するガソリン店頭価格は、4月20日時点で全国平均169・5円。しかし、実態を反映していない。実勢相場は160円、激戦地では150円前後だ。この週のENEOSの基準価格は前述の通り165・7円だが、補助金(35・5円)が差し引かれ、実際に適用された価格は130・2円である=65頁表参照。
 これに輸送費2円、消費税10%を載せても、特約店の仕入れ原価は145円程度。実勢相場でも15円近い十分な販売マージンを得られるのだ。一方、激戦地のマージンはわずか5円。カード割引で売れば、3%の手数料(4・5円)負担だけでマージンは吹き飛ぶ。それでも、安売りが続くのは、元売りの系列販路がイラン危機をシェア拡大の好機と捉えているからだ。

高市「ガソリン補助金」の愚昧

「経産省は元売りに対してすでに2回、系列を問わず前年同月比同量の出荷を要請している。にもかかわらず、系列店にはまったく太刀打ちできない」
 プライベートブランド(PB)の独立系販売店から聞こえてくる悲鳴は切実だ。PB店は燃料商社が扱う、いわゆる“業転(業者間転売)玉”を現金決済で安く仕入れてきた。が、元売りが系列販路を優先して業転玉を大幅に削減した結果、仕入れ原価は150円を超え、特約店の安売り価格よりも高い状態が続いている。補助金の恩恵はないに等しく、逆に補助金で安売りを深掘りできる特約店との非対称競争が一段と進んでいる。
 燃料商社に対する元売りの供給削減は、むしろ軽油、A重油が深刻だ。トラック、漁船、工場・ホテルなどの燃料が不足しており、例えば軽油販売最大手の宇佐美鉱油でさえ、運送業者へ割安に供給するインタンク販売が激減し、元売りからは「スタンドで給油させろ」と発破が掛かるという。その方が利益率は高まるからだ。
 3月27日、全日本トラック協会の主導により軽油の安定供給を求める総決起大会が自民党本部で開かれた。同党の小林鷹之政調会長は「不透明な国際情勢を踏まえた複数のリスクシナリオが必要」と挨拶している。
 4月10日時点の石油備蓄は230日分を切った。政府・与党の中にも、国備原油を取り崩しておきながら、補助金で消費を促す愚昧さへの批判は燻っている。投網を掛けるようなガソリン補助金は廃止し、一部の地方や産業燃料に支援を限定すべきだろう。韓国のガソリン店頭価格は約220円、香港は約660円である。
「ガソリンの先高を狙い、売り惜しみしている流通業者は今、固唾を呑んで補助金廃止を見守っているに違いない」
 ある石油関係者は嘆息する。PB店が廃業の瀬戸際にある一方で、元売り各社と燃料商社は今期26年度、空前の好決算に沸くだろう。翻って「供給の目詰まりを解消する」と見当違いな発言に終始する高市首相―。目詰まりを起こしているのはその政策にほかならない。


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