高市「サナエトークン」に潜む真相
金融庁「処分見送り」で政権に配慮
2026年6月号公開
「事務所および陣営としては他の候補者に関するネガティブな動画の作成、発信は一切行っておらず、第三者に依頼したこともない」
高市早苗首相は、5月22日の参議院本会議でこう答弁した。週刊誌が報じているいわゆる中傷動画問題についての回答である。この問題では、高市事務所とやり取りをしたという人物が実名で週刊誌に登場し、高市陣営を告発している。そして同じ人物が関わったのが、暗号資産「サナエトークン」だ。この問題についても、高市首相は4月に次のように国会答弁している。
「(サナエトークンについて高市事務所は)誰も説明を受けておらず、承認もしていない」
いやしくも首相という立場にある高市氏が、国権の最高機関の場で述べたのだから、その言葉が意味するところは重い。
こうして高市首相が知らぬ存ぜぬを続けている間に、違法である疑いが濃いサナエトークン問題で、関係者への処分が行われない雲行きなのだ。金融庁関係者が明かす。
「当局はうやむやにしようと、関係者らと手打ちしたようだ」
にわかには信じがたいが、この金融庁関係者は「高市首相側が知らなかったというのは通らない」と指弾する。ここで、サナエトークン問題の本質を改めて詳らかにしよう。
キーマンの「米国人脈」
サナエトークンがローンチ(発行)されたのは2月25日。8日の総選挙で歴史的圧勝を収め、高支持率を誇る時の首相の名前を冠した暗号資産が発表され、ネット上を中心に大騒動になったことは記憶に新しい。しかし、1週間も経たない3月2日、高市首相本人がSNSで、関与を否定。「私は全く存じ上げませんし、私の事務所側も、当該トークンがどのようなものなのかについて知らされておりません」と投稿したことで、暗号資産取引を所管する金融庁が動く事態となった。
問題は、サナエトークンが高市首相の主張する「Japan is Back」を想起させるプロジェクトの一環として発行されたと喧伝され、高市事務所の承認を受けたかのようにアピールされた点だ。発行直後、時価総額が一時数十億円規模に達したが、高市首相の投稿後に急落し、多くの利用者が損失を被った。
このトークン発行のキーマンこそ、冒頭で触れた週刊誌に登場している人物、松井健氏だ。同氏は暗号資産などを扱う「株式会社neu」の代表という肩書を持つ。ネット業界の人物のようだが、松井氏の過去を辿ると政治との接点が多い。
松井氏は、自民党の麻生太郎副総裁の弟が塾長を務める学校法人「麻生塾」傘下の専門学校出身。その後、デジタル関係の仕事に携わってきた。松井氏は政治にも興味があったようで、その分野で人脈を広げる過程で知り合ったのが、饗庭浩明氏とされる。饗庭氏は、幸福の科学の元職員で、2009年からは「饗庭直道」の名前で幸福実現党の初代党首を短期間務めた。15年に党や幸福の科学から離れ政治団体を立ち上げた人物だ。最近では「米共和党の全国委員会のアジア担当顧問」を自称している。
そして松井氏は、「饗庭氏の紹介で、フロリダ州にあるトランプ大統領の別荘『マール・ア・ラーゴ』で大統領関係者にも会った」(松井氏に近い筋)という。ある日本政府関係者は次のように指摘する。
「松井氏は、このつながりで米国に滞在して、トランプ氏の選挙動画などに関わったことで政治関連のPRも手がけるようになったようだ」
また、日本へ帰国後は、「国民民主党の玉木雄一郎代表のYouTubeチャンネルに携わった」(前出政府関係者)。
松井氏の「実績」を聞きつけたのが、昨年秋の自民党総裁選を控えていた高市首相の公設第一秘書である木下剛志氏だった。木下氏は20年以上にわたって高市首相の秘書を務めている側近中の側近だ。そして松井氏は高市陣営につき、木下氏とリモート会議などを重ねて、SNS上でのPR工作で成果を上げたのだ。この過程で対立候補へのネガティブキャンペーンも実施し、木下氏からの信頼を獲得した。
松井氏を知る関係者によれば、同氏は総裁選後に、YouTube番組「NoBorder」の関係者と手を組んだという。ここからサナエトークンの発行主体である合同会社「NoBorder DAO」に関与するのだ。高市首相誕生後すぐに、松井氏は「『NoBor
der』関係者と新しいコインをつくると周囲に豪語していた」(同関係者)という。
トランプ大統領の娘婿の名前も
価格を吊り上げるための算段をしていた形跡もある。ここで名前が出てくるのは、トランプ大統領の側近であり、娘婿のジャレッド・クシュナー氏。別の松井氏関係者は「松井氏は自民党関係者を通じて、クシュナー氏をサナエトークンに巻き込む話を進めていたようだ」と語る。
トランプ大統領はクシュナー氏に絶大な信頼を置いている。また、ビットコインをはじめとする暗号資産、仮想通貨はトランプ一家のビジネスに結びついていることは周知の通り。仮にクシュナー氏をサナエトークンに一枚噛ませられれば、高市首相の名前がつくトークンについて、大統領自身が言及する可能性もあっただろう。そうなれば価格が暴騰し―という皮算用である。(松井氏に弁護士を通じて質問状を送付したが、期日までに回答はなかった)
しかしローンチ直後に躓いて、松井氏らの思惑は外れたどころか、政府を巻き込んだスキャンダルに発展したのである。
発行時に「NoBorder」のサナエトークンを喧伝する動画に出演していた京都大学大学院の藤井聡教授には批判が殺到。結局、藤井氏はメディア出演がなくなった。
木下秘書本人の責任はもちろん、高市首相の監督責任も含めて、説明が必要であることは論を俟たない。外形的に見ても、「NoBorder DAO」は、暗号資産交換業者として金融庁に登録しておらず、資金決済法に違反している疑いが濃厚だ。3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金、もしくはその両方が科されるれっきとした犯罪である。
ところがある政府関係者は「不問に付した、ということです」と声をひそめる。
「片山さつき財務相から指導などは行わないほうがいいと見解が伝えられたと聞いている」
金融庁は、「NoBorder DAO」側に集めたカネを返済すると大々的に発表させ、被害は最小限ということで幕引きを図っている。そのため「今後、行政指導など処分が行われる予定はない」(同政府関係者)という。
高市事務所のみならず、ほかの政界関係者も見え隠れしており、キーマンの松井氏やその周辺についても洗いなおす必要がある。「秘書が、秘書が」で逃げるなら、高市首相も古臭い自民党議員と同類だ。
高市早苗首相は、5月22日の参議院本会議でこう答弁した。週刊誌が報じているいわゆる中傷動画問題についての回答である。この問題では、高市事務所とやり取りをしたという人物が実名で週刊誌に登場し、高市陣営を告発している。そして同じ人物が関わったのが、暗号資産「サナエトークン」だ。この問題についても、高市首相は4月に次のように国会答弁している。
「(サナエトークンについて高市事務所は)誰も説明を受けておらず、承認もしていない」
いやしくも首相という立場にある高市氏が、国権の最高機関の場で述べたのだから、その言葉が意味するところは重い。
こうして高市首相が知らぬ存ぜぬを続けている間に、違法である疑いが濃いサナエトークン問題で、関係者への処分が行われない雲行きなのだ。金融庁関係者が明かす。
「当局はうやむやにしようと、関係者らと手打ちしたようだ」
にわかには信じがたいが、この金融庁関係者は「高市首相側が知らなかったというのは通らない」と指弾する。ここで、サナエトークン問題の本質を改めて詳らかにしよう。
キーマンの「米国人脈」
サナエトークンがローンチ(発行)されたのは2月25日。8日の総選挙で歴史的圧勝を収め、高支持率を誇る時の首相の名前を冠した暗号資産が発表され、ネット上を中心に大騒動になったことは記憶に新しい。しかし、1週間も経たない3月2日、高市首相本人がSNSで、関与を否定。「私は全く存じ上げませんし、私の事務所側も、当該トークンがどのようなものなのかについて知らされておりません」と投稿したことで、暗号資産取引を所管する金融庁が動く事態となった。
問題は、サナエトークンが高市首相の主張する「Japan is Back」を想起させるプロジェクトの一環として発行されたと喧伝され、高市事務所の承認を受けたかのようにアピールされた点だ。発行直後、時価総額が一時数十億円規模に達したが、高市首相の投稿後に急落し、多くの利用者が損失を被った。
このトークン発行のキーマンこそ、冒頭で触れた週刊誌に登場している人物、松井健氏だ。同氏は暗号資産などを扱う「株式会社neu」の代表という肩書を持つ。ネット業界の人物のようだが、松井氏の過去を辿ると政治との接点が多い。
松井氏は、自民党の麻生太郎副総裁の弟が塾長を務める学校法人「麻生塾」傘下の専門学校出身。その後、デジタル関係の仕事に携わってきた。松井氏は政治にも興味があったようで、その分野で人脈を広げる過程で知り合ったのが、饗庭浩明氏とされる。饗庭氏は、幸福の科学の元職員で、2009年からは「饗庭直道」の名前で幸福実現党の初代党首を短期間務めた。15年に党や幸福の科学から離れ政治団体を立ち上げた人物だ。最近では「米共和党の全国委員会のアジア担当顧問」を自称している。
そして松井氏は、「饗庭氏の紹介で、フロリダ州にあるトランプ大統領の別荘『マール・ア・ラーゴ』で大統領関係者にも会った」(松井氏に近い筋)という。ある日本政府関係者は次のように指摘する。
「松井氏は、このつながりで米国に滞在して、トランプ氏の選挙動画などに関わったことで政治関連のPRも手がけるようになったようだ」
また、日本へ帰国後は、「国民民主党の玉木雄一郎代表のYouTubeチャンネルに携わった」(前出政府関係者)。
松井氏の「実績」を聞きつけたのが、昨年秋の自民党総裁選を控えていた高市首相の公設第一秘書である木下剛志氏だった。木下氏は20年以上にわたって高市首相の秘書を務めている側近中の側近だ。そして松井氏は高市陣営につき、木下氏とリモート会議などを重ねて、SNS上でのPR工作で成果を上げたのだ。この過程で対立候補へのネガティブキャンペーンも実施し、木下氏からの信頼を獲得した。
松井氏を知る関係者によれば、同氏は総裁選後に、YouTube番組「NoBorder」の関係者と手を組んだという。ここからサナエトークンの発行主体である合同会社「NoBorder DAO」に関与するのだ。高市首相誕生後すぐに、松井氏は「『NoBor
der』関係者と新しいコインをつくると周囲に豪語していた」(同関係者)という。
トランプ大統領の娘婿の名前も
価格を吊り上げるための算段をしていた形跡もある。ここで名前が出てくるのは、トランプ大統領の側近であり、娘婿のジャレッド・クシュナー氏。別の松井氏関係者は「松井氏は自民党関係者を通じて、クシュナー氏をサナエトークンに巻き込む話を進めていたようだ」と語る。
トランプ大統領はクシュナー氏に絶大な信頼を置いている。また、ビットコインをはじめとする暗号資産、仮想通貨はトランプ一家のビジネスに結びついていることは周知の通り。仮にクシュナー氏をサナエトークンに一枚噛ませられれば、高市首相の名前がつくトークンについて、大統領自身が言及する可能性もあっただろう。そうなれば価格が暴騰し―という皮算用である。(松井氏に弁護士を通じて質問状を送付したが、期日までに回答はなかった)
しかしローンチ直後に躓いて、松井氏らの思惑は外れたどころか、政府を巻き込んだスキャンダルに発展したのである。
発行時に「NoBorder」のサナエトークンを喧伝する動画に出演していた京都大学大学院の藤井聡教授には批判が殺到。結局、藤井氏はメディア出演がなくなった。
木下秘書本人の責任はもちろん、高市首相の監督責任も含めて、説明が必要であることは論を俟たない。外形的に見ても、「NoBorder DAO」は、暗号資産交換業者として金融庁に登録しておらず、資金決済法に違反している疑いが濃厚だ。3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金、もしくはその両方が科されるれっきとした犯罪である。
ところがある政府関係者は「不問に付した、ということです」と声をひそめる。
「片山さつき財務相から指導などは行わないほうがいいと見解が伝えられたと聞いている」
金融庁は、「NoBorder DAO」側に集めたカネを返済すると大々的に発表させ、被害は最小限ということで幕引きを図っている。そのため「今後、行政指導など処分が行われる予定はない」(同政府関係者)という。
高市事務所のみならず、ほかの政界関係者も見え隠れしており、キーマンの松井氏やその周辺についても洗いなおす必要がある。「秘書が、秘書が」で逃げるなら、高市首相も古臭い自民党議員と同類だ。
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