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連載

皇室の風63

伊勢神宮と鎮守さま
岩井克己

2013年11月号

 伊勢神宮の第六十二回式年遷宮が終わった。今年の参拝者は一千万人に及ぶ勢いという。

 二十年前の平成五年十月二日、内宮の「遷御の儀」に参列したことを思い出す。三千人もの奉拝者は遷御の道筋を埋め尽くし、記者の現場取材は地元記者クラブ代表など数名に絞られていたが、「宮内記者会代表」として神宮司庁が急遽認めてくれた。

 奉拝者は午後四時には席に着き、ただひたすら待ち続ける。うっそうと繁る樹林から陽光が差して鳥の鳴き声が飛び交い、会場に迷い込んだ蛙を職員が慌てて追いかけて会場に笑いが起きるなど長閑な空気である。

 そして待たされること四時間近く。日はとっぷりと暮れ、やがて庭燎も消されると、辺りは森閑の気と静寂に包まれ、しわぶきひとつない闇の中で次第に緊張感が高まって、ひたすら「神の移御」の始まるのに耳目を澄ますようになる。全神経が研ぎ澄まされ、永遠に始まらないのではないかとすら思う頃、おもむろに左上方から道楽の低声か、行列の浅沓の玉砂利を踏む音か、微かな気配がして、少しずつ少しずつ近づいて来る。そしてついには見えない集団が前方を・・・