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経済

《企業研究》三菱地所

「わが世の春」に暗雲

2013年11月号

「もはや邸宅はなくなってしまったが、三菱地所の卑劣で野蛮な行為だけは永久に記憶にとどめておきたい」

 近隣住民の一人はこう振り返って唇を噛みしめる。南満州鉄道総裁や東京市長などをつとめた中村是公の旧私邸「羽澤ガーデン」(東京・渋谷区広尾)の保存を求めて結成された「羽澤ガーデンの文化財と景観を守る会」と三菱地所傘下の住宅事業中核会社、三菱地所レジデンスとの間で裁判外和解が成立したのは、昨年十一月下旬のことだった。

 羽澤ガーデンは大正期の一九一五年に建てられた近代和風の邸宅。緑豊かな庭園と木立に覆われた約三千坪の敷地は近隣住民にも開放され、憩いと格好の散策場所ともなっていた。そこに持ち上がったのが三菱地所によるマンション建設計画。邸宅を解体・撤去し、富裕層向けなどの低層マンションとして再開発しようというものだが、これに反対する住民らとの間で足掛け六年にわたって諍いが続いていたのだ。

 住民らは二〇〇七年十月、渋谷区と東京都に対して開発許可の取り消しや建築確認を行わないよう求める行政訴訟を東京地裁に提起。ところが三菱地・・・