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連載

追想 バテレンの世紀 連載95

イエズス会と他宗派間の抗争
渡辺 京二

2014年2月号


 一六一四年、宣教師がマカオへ退去する直前に起った教会分裂の影響は尾を曳き、その後激化した迫害の下でも、イエズス会とスペイン系托鉢修道会の抗争はやむことなく、信者の取りあいにまで至った。

 一六一七年、イエズス会日本管区長コーロスは、東北から九州にかけて一五カ国七五カ所のキリシタンから、スペイン宮廷のポルトガル管区代表宛の証言文書を徴集した。文書によって文言の違いはあるが、主眼は一六一四年の禁教令にもかかわらず、多くのイエズス会司祭が残留し、苦難を忍びつつ信者間を廻って聖務を執行していることを証言するにあった。イエズス会以外の宗派の、「御出家」が一人も来訪しなかった、あるいは来訪してもほんのわずかの間だったと証言している例が少なくないことが注目され、さらに「へるせきさん」(迫害)が起った際、コンパニア・パードレ(イエズス会)司祭に「御油断」があったような風聞があるが、そういうことはいささかもない、と付け足している例がいくつか見られるのは、この証言作成の動機がいずれにあったか、示唆するものといえる。

 松田毅一はコーロス徴集文書につ・・・