三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

皇室の風 74

退位しなかった心
岩井 克己

2014年10月号

『昭和天皇実録』が公開された。裕仁親王という一人の人間が歩んだ「天皇」という特異な生涯と、天皇を精神的主軸として近代化を急いだ特異な国家体制がたどった「戦争と平和」の軌跡が精細に観望できる。

 むろん天皇の足跡だけで昭和という時代が解明されるわけではない。愛国と正義の名の下に深く人心を蝕んだ欺瞞と盲信、国内外の凄まじい惨禍と犠牲、その上にどのような現在があるかということこそが、国境を超えて歴史家の主題となるべきだろう。その意味で「宝の山」にもなり得るのだろうと思う。

 新史料が新たに加わったとか、新事実が乏しく期待外れだとか、特定史料に宮内庁がお墨付きを与えたとか、区々に切り取って喋々することは、対象の巨大さを思えば、ある意味で空しい。

 むしろ当面、現役の宮中記者たちに期待されるのは、封印されたり小出しにされたりした原史料の発掘や編修プロセスの実態の解明だろう。また、いったん完成し印刷されたあと更に五カ月も公表が遅れた裏に何があったか、どんな葛藤があったのかの掘り起こし作業だろう。

 以上を重々承・・・