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連載

続・不養生のすすめ57

加齢変化への錯覚
柴田 博

2015年9月号

 百年あまり前にジェロントロジー(老年学)という学問が創出された。以来、人間の加齢変化を観察したり分析したりすることが、大きな関心の的となった。そして、多くの人々は、人間の加齢変化を特定することを、それほど難しいことではなく、研究者間の加齢変化のとらえ方の違いはそんなに大きなものではないと思い込んでいる。

 しかし、実際には、加齢変化を正しく認識することは容易なことではなく、その正しい認識のために日々、この方面の研究者は悪戦苦闘しているのである。今回は、自明のことと思われている加齢変化が、実は錯覚に過ぎないという例を示して、そのことを説明したいと思う。

 加齢変化に対する錯覚のもっともありふれた例は、一つの集団(社会でもよい)において、若者にはみられず、高齢者にのみみられる現象を加齢変化と取り違えることである。

 三十年くらい前、筆者のもとで、東京のある区で高齢者を一生懸命調査していた若い研究者のI君がいた。ある日I君は興奮した面持ちで筆者のところにやってきた。「先生、日本人は、八十歳を超えるような年齢になると、東北弁の・・・