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連載

本に遇う 連載190

たかが賞、されど賞
河谷史夫

2015年10月号

 賞を貰う人と貰わない人があって、貰う人は何度も貰うが貰わない人は一度も貰わない。

 そう言ったのは『やぶから棒』の山本夏彦で、まだ有名でなかったころ、「私はさる賞をもらいそこなった」と書いている。何という賞だったかは知らない。コラム対象の賞であったらしい。

「コラムに対する賞なら天下ひろしといえども私にくれるよりほかないと、笑止やくれるにきまっていると思っていた」

 ところが別人に行き、その後もなかった。「私に与えないで、よくまあなん十人も与える人があるなあと、私はその賞をバカにするに至った」というのは、自信が言わせたことだろう。賞のあるなしと文章の値打ちとは関係ない。

 馬に食わせるほどある文学賞のなかで、年に二回も出る芥川賞がどうしてあんなに大騒ぎされるのか、かねて不思議である。出版社の商法に乗せられているとしか思えないのだが、一九三五年にできたとき、やたら欲しがったのが太宰治だったとは有名な話だ。

 佐藤春夫に当選を頼み込んだ手紙が一通あったとは周知だが、さらに泣きつく・・・