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連載

誤審のスポーツ史 11

死にゆく「ノーサイド」の精神
中村 計

2015年11月号

「誤審」は存在しえないとされてきたラグビー文化の中において、異例の声明だった。

 十月十九日、国際統括機関のワールドラグビー(WR)は、前日に行われたラグビーワールドカップ・イングランド大会の準々決勝、スコットランド対オーストラリアで誤審があったと発表した。

 問題となったのは次のようなシーンだった。

 試合時間は、残り約二分。34│32と二点をリードしていたスコットランドは、ラインアウト(横のラインからスローイングでボールを投入)からのボールをジョン・ハーディーが両手でキャッチしかけたが、胸で収めきれずに「ノックオン(ボールを前に落とす反則)」。こぼれ落ちたボールを、ハーディーより前にいたジョン・ウェルシュがつかんでプレーを続行したため、審判は「ノックオンオフサイド」と見なし、オーストラリアにペナルティーキックを与えた。ノックオンならオーストラリアのスクラムで済んだが、オフサイドが加わったため反則がより重くなったのだ。オーストラリアはバーナード・フォーリーが冷静に三点キックを決め、土壇場で35-34と逆転勝利を飾った。・・・