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連載

皇室の風90

還らぬ屍三十七万が語るもの
岩井克己

2016年2月号

 天皇のフィリピン訪問が急浮上し実現が決まった。

「あくまで国交正常化六十周年の親善がメーン」(宮内庁幹部)というが、やはり太平洋戦争で最大の激戦地として、改めて惨禍の記憶が呼び覚まされる訪問である。

 本土外のアジア太平洋での戦没日本人の総数は二百四十万人。そのうち戦後七十年を経て未だに収容されていない遺骨は百十三万余。このうち、中国東北地区(約二十万)など現地の国民感情から収容困難な地域を除く収容実施可能地域の遺骨は約六十一万。主たる収容実施可能地域はフィリピン約三十七万、中部太平洋約十七万。このほか海没遺骨約三十万という。

 フィリピンは日本人戦没総数五十二万人と地区別では最多であり、フィリピン国民は百十万人が犠牲となった。しかし、マニラ市街戦で妻子四人を目前で日本軍に惨殺されるという辛い経験を抱えながら、エルピディオ・キリノ大統領(当時)が一九五三年、モンテンルパ刑務所の死刑囚など日本人戦犯の恩赦に踏み切るなど、基本的には赦しと寛容の国として、日本の多くの慰霊団や遺骨収集団を受け入れてきた。

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