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経済

対ロシア「一兆円」経済支援の大愚

詐取される北方領土交渉の「手付金」

2016年10月号

 回答はたったひと言、取りつく島もなかった。
「検討している事実はありません」
 菅義偉官房長官は九月二日午前の記者会見の席上、ロシア国営の石油最大手、ロスネフチに対する経済産業省の出資計画の是非を問われ、即座に否定した。この日は日ロ首脳会談の当日。安倍晋三首相は午後、ウラジオストクへ飛び、プーチン大統領と通算十四回目の会談に臨んだが、それを狙い澄まし、同日付の日本経済新聞一面には「対ロシア包括エネ協力」のトップ見出しが躍っていた。
 協力の柱となるのは、極東と東シベリアにおける石油・天然ガスの共同開発である。とりわけ経産省は、所管独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じ、ロスネフチの発行済み株式の一〇%程度を最大一兆円で取得することを検討中と報じられた。財政難に苦しむロシアだが、安全保障にも関わる国営資源会社の資本をわが国に開放するのは初めてのこと。翻って日本政府にすれば、一兆円は北方領土返還の手付金にほかならない。
 その報道を、菅長官はにべもなく否定した。経産省の箝口令も堅い。無理もない。クリミア併合以来、西側の経・・・