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連載

本に遇う 連載213

姑息ハ小人之道ナリ
河谷史夫

2017年9月号

 優勝回数三十九回、初土俵以来の勝ち星一千五十という「大横綱」白鵬に不満がある。おおらかなはずの不知火型の土俵入りが、何でああ縮こまっているのか。のみならず、立ち合いが汚い。相手の頰を張ったり、肘で顔面を狙ってかち上げたりする。こういう手を常用する横綱を見たことがない。名古屋場所でも頻繁だった。同憂の士の声を新聞の投書欄で読んだ。
「あの張り手が出て来るたびに、横綱の風格に欠けると思ってしまい、白鵬の取組になるとチャンネルを変えるようになった」と言うのは千葉の八十九歳翁=朝日。「いやしくも『横綱』を名乗る力士がこのような立ち合いを繰り返していては、『相撲』という伝統が衰退するのではないかと危惧する」のは兵庫の六十三歳老=毎日。
 横綱審議委員会という老人クラブの座長が、白鵬の張り手に「私はあんまり良い印象を持っていない」と苦言を呈したが、横審としての意見ではないらしい。そもそも相撲記者があの立ち合いを何ら問題にしないのはおかしい。連中も政治記者に似て、取材相手に批判めいたことは書けないのか。
 勝ってなんぼの世界である。勝つために何をしようと構わないという・・・