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中国「密告社会」が一層苛烈に

14億人「相互監視」の暗い大国

2017年11月号

 それは一瞬の出来事だったという。十月上旬、北京大学や清華大学など、中国の一流大学が集まる北京の海淀区にある古い六階建てのビルの片隅で小さな書店を営む男性が、公安当局に突然連行されたのだ。書店に現れた数人の警察官は、男性に対し「テロ計画の疑いがある」と告げた。男性に近い関係者は「テロに関与するような人物ではない」と冤罪を主張する。真相はまだ藪の中だが、その後の経過を追うと、当局の目的が事件とは別にあったことが浮かび上がってきた。
 中国にとって最重要政治イベントである五年に一度の共産党全国代表大会(党大会)が直前に迫っていた時期だ。市内では、八十五万人以上の治安ボランティアが動員され、ブロックごとに不審な動きがないか目を光らせていた。男性は、そんな公安当局が敷いた「水も漏らさぬ厳戒態勢」(蔡奇・北京市党委書記)の網にかかったのだ。不運は男性が新疆ウイグル自治区出身であり、経営する書店がイスラム関連の書籍を扱う専門店だったこと。危険の芽を摘むための大義名分を得た当局は、男性を拘束すると間もなく新疆地区へと移管した。八十五万人のボランティアは観光客への案内人ではなく、監視員であり・・・