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連載

《世界のキーパーソン》マーガレット・アトウッド(カナダ人小説家)

トランプ時代を予言した「暗黒郷小説の女王」

2018年1月号

 トランプ時代をどう生きるか。世界の読書界では、「理想郷(ユートピア)」の逆を描いた「ディストピア(暗黒郷)」小説が流行している。ジョージ・オーウェルの古典『一九八四年』や『動物農場』、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』が代表例だ。
 政府が恒常的に噓をついて国民を洗脳し、国民が政府の意のままに動かされる社会。オーウェルはスターリン時代の全体主義・ソ連を念頭に置いていたが、政府発の「フェイク(偽)ニュース」がまかり通る現在の米国では、「これって、今のこと?」という感覚で読まれている。「不条理」を扱った、『審判』などフランツ・カフカの一連の作品も人気という。
 この中で別格の位置を占めたのが、アトウッドが一九八五年に発表した『侍女の物語』(ザ・ハンドメイズ・テイル、邦訳はハヤカワepi文庫)だった。
 米国が近未来に、キリスト教原理主義勢力に支配される宗教国家になり、有色人種や他宗教を迫害し、女性たちは子供を産む道具、「性奴隷」として「侍女」にさせられるという物語だ。二〇一七年は米国発で、女性へのセクシャル・ハラスメント(性的嫌がらせ)が世界的に大き・・・