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連載

新・不養生のすすめ10

酒の種類で変わる酔い方
大西 睦子

2018年1月号

「ワインは最も健康的で、最も衛生的な飲み物」。フランスの化学者・細菌学者のルイ・パスツール博士(一八二二〜一八九五)の名言だ。狂犬病ワクチンの発明など、医学の発展にさまざまな功績を残したパスツール博士は、アルコールの発酵が、酵母という微生物の活動によることも発見した。さらに当時、時間が経つとワインが酸っぱくなることに頭を抱えていたワイン業者の悩みを受け、パスツール博士は、その原因は雑菌の増殖であることを科学的に実証し、低温殺菌法を開発した。この方法は、ワインを沸騰しない温度で温めることで、風味を損なわずに、細菌を死滅させて、ワインの腐敗を防ぐ。パスツール博士は、「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」という名言も残している。博士のワインの研究は、祖国フランスへの愛国心を感じる。パスツール博士なしでは、熟成ワインは存在しなかったかもしれない。
 実は、パスツール博士が誕生する少し前の一八一九年、アイルランドの心臓専門医の先駆者サミュエル・ブラック医師は、狭心症による胸痛が、アイルランド人よりもフランス人にはるかに少ないこと、その違いはフランス人の食習慣や生活様式にあること・・・