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連載

本に遇う 第220話

新聞は誰のためにあるか
河谷 史夫 

2018年5月号

『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』を見た。
 泥沼のベトナム戦争で、アメリカ政府は国民に嘘をついていた。それをあばく「最高機密文書」を新聞が素っ破抜いたジャーナリズム史上画期的な事件の映画化である。
 新聞がまだ輝きに満ちていた時代を想起させずにおかない。スピルバーグはしかし回顧趣味で撮ったわけではあるまい。「政府と新聞」という緊張をはらむ対決は、今も新しい出来事だからである。
 一九七一年六月十三日の日曜日、最高機密文書を特報したのはニューヨーク・タイムズであった。二十年を超える間、トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンと歴代の政権はベトナム介入に関する事実を隠蔽した。平和的解決の追求を表明しながら裏で軍事行動を取り、隠れて政治的暗殺を謀り、ジュネーブ条約に違反し、不正選挙をやり、連邦議会には虚偽報告をしていたのである。
 六七年に国防長官マクナマラの指示で作られた文書には「合衆国のベトナムに於ける政策決定の歴史(1945―67年)」という平凡な題名がつけられていた。三千頁の歴史的記述と四千頁の補遺資料からなり、全体で四十七巻。・・・