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連載

皇室の風 第120話

歴史の天使
岩井 克己

2018年8月号

この連載も書きついできて丸十年が経った。
「余話」と題しているのは、数多の皇室の表向きの活動や関連する世の動きとは別に、その裏側と筆者の思いを書きたかったからだ。
 報道記者は客観報道の鬼にならねばならない。その過程でこぼれるもの、あふれる思いを、あえて時制にこだわらず随意に書き連ねてきた。脈絡はないようで、あるようで、読者には不親切な読み物だろうと申し訳なく思う。
 天皇、天皇制、そしてその歴史を扱う書は数え切れない。しかし現場を実見しない専門家によって骨格標本のように「構成」されがちのようにも思う。現場で継続してウオッチしてきた「職人」として筆者にできることは、現場での直観と、次々に逝く宮中の人々の生きた記憶を挽歌をうたうように記しとどめることでしかないのである。
 歴史とは、生ける人々がたどった運命を時系列で記した「死せる標本」ではない。「神は細部に宿る」とすれば、かつて存在した「いま」を「構成」することによって切り落とされる「細部」の何と多いことか。
 ナチズムの嵐に追われて果てた思想家ヴァルター・ベンヤミンが「歴史哲学テーゼ」・・・