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社会・文化

安倍「農産物輸出振興」は欺瞞の塊

地域と伝統を滅ぼす「地理的表示」

2018年10月号

 自民党総裁選挙で現職閣僚ながら石破茂元幹事長を応援して名を上げた齋藤健農林水産相だが、本業の農業政策ではあまり成果が挙がっていない。実績として誇示するのは「一兆円」を目標に掲げた農林水産物・食品の輸出だ。確かに五年連続で増加し八千億円を突破したが、本誌(昨年十一月号)で指摘したように、この金額は真珠などを含む水増しで、加工食品の原料や家畜の飼料は輸入に依存し、国内の生産力の向上に結びついていない。さらに輸出一辺倒の政策のひずみは、食文化にも及んできた。
 愛知県の豆味噌である八丁味噌の本家争いだ。岡崎城の西八丁(約八百七十メートルの距離の地)には江戸時代から続く老舗「まるや八丁味噌」と「八丁味噌」(屋号はカクキュー)があるが、農水省は昨年十二月、金属製タンクで加熱処理し一年で製造する大量生産方式を容認した上で、名古屋市などの四十三社が加盟する「愛知県味噌溜醤油工業協同組合」を生産団体として「八丁味噌」を地理的表示(GI=Geographical Indica
tion)保護制度に登録した。
 当然ながら老舗二社は猛反発。「約三トンの川石を円錐状に積み上げ・・・