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「外資殺到」ベトナム経済の落とし穴

進出日本企業の「楽園」ではない

2019年10月号

米中経済戦争で今、中国の輸出型生産拠点は外資、中国企業を問わず東南アジアへの移転を加速させている。移転先として、最も関心を集めるのはベトナムである。労働力が豊富で、賃金もまだ安く、物流、工場用地など多くの条件が整っている国だからだ。当然、賃金上昇や道路、電力などインフラ不足が課題となってくるが、実はそれ以上に深刻なリスクがベトナムにはある。ハイパーインフレと政治の停滞である。中国、タイの次の産業集積地としてベトナムに怒濤の勢いで入り込む日本企業は落とし穴を認識していない。
 ホーチミン市中心部から北に車で一時間。ベトナム最大級の産業集積地とされるビンズン省にはシンガポール資本のVSIPやソンタン、ミーフックなど巨大工業団地が林立する。タイの工業団地などに比べ、空地をとって、ゆったりしているのが特徴だったが、昨年来、工業団地の外観が変わり始めた。新規の工場進出が相次ぎ、残っていた区画が売り切れ、既存の工場も建屋を増設、工場が密集してみえるようになったからだ。
 ホーチミン日本商工会議所の会員社数は今年四月に一千社の大台に乗り、七百五十社のハノイ、さらにダナン、ハイフォ・・・