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連載

美の艶話 第46話

いかさまもフェアプレイ
齊藤 貴子

2019年10月号

勝負は序盤で決める―。いかにも格好いいけれど、そんなことをいったり思ったりしているうちは、まず痛い目をみる。勢いとはったりで勝てないこともないけれど、長丁場では必ずといっていいほど負けが込んでくる。
 これ、人生ではなくゲームの話。
 そもそも、人生を語れるほどまだ馬齢を重ねてはいない(つもりだ)し、お堅い商売柄ゆえ勝負事にはとんと弱く、そちら方面の運も縁もまるでない。下手の横好きよろしく申し訳程度に、それこそ格好だけ盤上遊戯を嗜んでいる程度だが、なかでも愛してやまないのが「盤上の戦争」と呼ばれるチェスである。
 むろん囲碁も将棋も盤上の戦いにはちがいないのだけれど、この二者とチェスとの間には決定的な相違がある。少なくとも、互いに憎からず思っている男女が指しつ指されつ、向かい合って興じるならチェスが一番。そう思わせてくれる一枚の絵が、ルーシー・マドックス・ブラウン作《チェスに興じるファーディナンドとミランダ》にほかならない。
 ルーシーというファーストネームの響きどおり、作者は女性の画家。元をたどればフォード・マドックス・ブラウンという十九世紀イ・・・