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連載

現代史の言霊 第18話

十月の渡米 1979年(イラン米大使館占拠事件)
伊熊 幹雄

2019年10月号

一九七九年
《米国が我々に対してできることは何もない》

ホメイニ師(元イラン最高指導者)


四十年前の一九七九年十月二十二日の夜。米ニューヨークのラガーディア空港に、イラン革命を逃れたモハマド・レザー・パーレビ元国王が、ファラ元王妃や随行者とともに、専用機で到着した。ニュースは間もなく、イランにも伝わり、反米デモが各地で起こった。今日まで続く、「反米」をイランに刻印する一連の事件が、始まった。
 民主党のジミー・カーター大統領は受け入れを渋った。しかし、ヘンリー・キッシンジャー前国務長官らから猛烈な圧力を受け、「癌の緊急治療が必要」という理由で元国王を受け入れた。一行は空港から病院に直行した。
 この瞬間を待ちわびていた、数人の学生活動家がテヘランにいた。アヤトラ・ルホラ・ホメイニ師が同年二月に帰国して八カ月。イラン革命はまだ政変成就したばかりで、学生たちはホメイニ体制を確立するチャンスをうかがっていた。
 彼らには、お手本があった。二月、左翼組織がテヘランの米国大使館を・・・