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ベネチア「水没」に 無力のイタリア

大型公共事業が「不可能」な国柄

2019年12月号

 イタリアの水の都ベネチアが、今世紀末までに完全水没する危機に瀕している。十一月には、まるでその予兆のように、何度も高潮に見舞われた。
 イタリア政府は巨大防潮堤プロジェクト「モーゼ」でベネチアを救う計画だが、完成予定から八年過ぎても、使えるメドが立っていない。イタリア特有の政争、贈収賄、予算膨張を繰り返すうちに、構想自体に疑念が強まっている。
 まず衝撃の研究を紹介しよう。
 今秋、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が発表した予測では、地球温暖化に伴う海面上昇により、ベネチアは今世紀末には、最大で一・一メートルも海面水位が上がる。これだけでも、水の都は居住不能になる。
 地殻変動の要因から予測したものでは、今世紀末までの海面上昇は一・四メートルだ。これは、イタリア国立地球物理学・火山学研究所(INGV)が一昨年に発表した調査報告だ。ベネチアがあるイタリア北部のアドリア海岸は、どこも浸食が激しく、周辺がごっそり水没の危機にあるという。
 気象観測で見ると、一八七〇年から一九四九年までの八十年間で、潮位一・一メートル以上の・・・