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連載

Book Reviewing Globe 434

米中対決が不可避な時代の知恵

2020年7月号

 新型コロナウイルス危機は、戦後長い間、米国主導の自由で開かれた国際秩序の下で封じ込めてきたレアルポリティーク(権力政治)を生臭い形で噴出させつつある。米中の熾烈な覇権闘争、戦略的物資や部品の囲い込み、グローバル・サプライチェーンの途絶と地経学的ゼロサムゲーム、自国第一の保護主義、勢力圏の拡大、政治的影響力の浸透……グローバル化は逆回転をはじめ、国際秩序は一気に瓦解に向かっている。それとともに、戦後最大の地政学者であり、レアルポリティーク外交を追求したヘンリー・キッシンジャーが再発見されつつある。まさに「キッシンジャーの世界」が現出しつつあるのだ。
 ウィルソン主義の理想主義的世界観と、米国の宣教師的使命感に裏打ちされた戦後の米国の外交の系譜の中では、キッシンジャーは異端の戦略家であり、唾棄すべき存在でさえある。実際のところ、キッシンジャーは、北爆(なかでも“クリスマス爆撃”)とウォーターゲート事件とチリのアジェンデ政権転覆によってその後も非道徳的な“戦争犯罪人”として非難され続けてきた。
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