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ロシアお抱え「サイバー強盗」の猛威

米英の追及もあざ笑う大物犯罪者

2021年1月号

 迷彩柄にカスタマイズされた特注のランボルギーニを乗り回し、渋滞の高速道路では爆音で路肩を走り抜ける。車のナンバープレート番号は“盗賊”―。
 モスクワ市内を我が物顔で疾走する男の名は、マクシム・ヤクベツ(三十三)。ウクライナ生まれでモスクワに暮らすヤクベツは、米司法省から五百万ドルの報奨金を懸けられ、英国家犯罪対策庁(NCA)にも追われている、いま欧米でもっとも注目されている大物サイバー犯罪者の一人である。
 ただここまで目立つ生活をしていても、この男が逮捕されることはないだろう。なぜなら、ロシア情報機関のFSB(連邦保安庁)が、国内で大事に「放し飼い」して操っているからだ。
 ロシアがこの男を庇護の下に置く思惑はどこにあるのか。それを紐解くために、この大物犯罪者の活動の実態に迫ってみたい。

被害総額は二十五兆ドル規模

 ヤクベツは、米司法省関係者に言わせれば、「典型的な二十一世紀型の犯罪者」だという。オンライン上では「アクア」という名で活動し、コンピュ・・・