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連載

現代史の言霊  第34話

二月の端緒 -二〇〇一年米同時多発テロ事件-
伊熊 幹雄

2021年2月号

《何か非常に派手なことが近々起こる》
リチャード・クラーク(米国の元対テロ調整官)

 米アリゾナ州はメキシコに接し、冬も温暖だ。州都フェニックスは十九世紀に定住が始まり、世界中から移民を受け入れてきた。懐の深い、エキゾチックな都会である。
 二十年前の二〇〇一年初め。
 フェニックスの飛行訓練学校「ジェットテク」では、教員たちが、サウジアラビア人の留学生について頭を悩ませていた。
 この男は愛想がよく、態度も熱心なのだが、英語がほとんど話せなかった。操縦の方も、教官たちが「絶対に操縦かんを握らせてはいけない」と口をそろえるほど、絶望的だった。
 教官たちを驚かせたのは、当時二十八歳の留学生は、十代の時にアリゾナ大学で「英語を勉強した」と言うのだ。それ以後何度も渡米した。子供の頃から飛行機に強い関心があり、二年前には、操縦士の免許まで取得したという。

飛行学校のサウジアラビア人

 会社の幹部は気味が悪くなり・・・

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