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連載

本に遇う 第254話

「角栄潰し」の下手人
河谷 史夫

2021年2月号

「金権」田中角栄とロッキード事件と言えば、世に名高い立花隆の『田中角栄研究全記録』と『ロッキード裁判傍聴記』全四巻がある。堀田力の『壁を破って進め』がある。コーチャンの『ロッキード売り込み作戦』がある。東京新聞特別報道部編『裁かれる首相の犯罪』全十六集がある。毎日新聞社編『総理の犯罪』がある。朝日新聞東京本社社会部著『ロッキード事件 疑獄と人間』がある。日本が震撼した事件を知るための手立てはごまんとある。
 全日空の大型旅客機トライスター導入を丸紅に頼まれた時の首相が「よしゃ、よしゃ」と応じ、五億円の賄賂を受け取ったのがばれて逮捕され一件落着となった。時は流れる。事件は次々に起きる。今さらロッキードか、と言う向きもあろうが、この本を手に取ってページを開かれよ。
 立花隆の傍聴記から二行が引かれてある。いわく「ロッキード事件は裁判によって明るみに出される部分より、関係者の沈黙によって永遠に闇の中に葬られた部分のほうがはるかに巨大なのである」。
 著者の春名幹男は一九四六年生まれ、共同通信記者として滞米十二年、日米関係とインテリジェンスを専門とする。その「巨大・・・