三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

Book Reviewing Globe 445

インド太平洋戦略の「勝算」

2021年6月号

 バイデン政権は外交・安全保障政策に関してはトランプ政権のイニシアチブを相当程度、踏襲している。中国を明確に戦略的ライバルと位置付けているのがその典型だが、インド太平洋戦略もそれに劣らず重要である。インド太平洋が米国にとって、そして世界にとってもっとも戦略的に重要な地域であるとの認識をバイデン政権がトランプ政権以上に持っていることは、先の日米首脳会談でも確認されたところである。
 ただ、インド太平洋とはいかなる戦略概念なのか。そして、誰がインド太平洋を支配するのか。
 日本、豪州、米国がそれを一つの意味ある地政学的な地域概念として打ち出したのは二〇一〇年代である。オーストラリアは一三年、防衛政策白書にその言葉を挿入した。日本は一六年、「自由で開かれたインド太平洋」構想を打ち出した。米国は一七年、「国家安全保障戦略」においてその概念を用いた。
 しかし、中国は、そのような概念形成より先に、太平洋とインド洋をつなげた形でそこに「勢力圏」を構築しようと具体的行動を開始していた。一五年にはオーストラリア北部のダーウィン港の管理権を九十九年にわたり取得した。一七年に・・・