三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

現代史の言霊  第38話

六月の独立 -1991年のユーゴスラビア分裂-
伊熊 幹雄

2021年6月号

《セルビア人の割合が3~5%ならいい》
フラニョ・トゥジマン(クロアチア元大統領)

 一九八〇年代の後半。筆者はバルカン半島の長距離列車で、当時「ユーゴスラビア」と呼ばれた国を横断する旅行をしていた。
 コンパートメントに、「よろしいですか」と英語で、東アジア系の細身の男性が入ってきた。聞けば、北朝鮮の人だという。愛想のいい、よく話す人だった。
 北朝鮮による日本人拉致問題が表面化する、ずっと前のことだ。偶然を装って現れた北朝鮮人が、日本人旅行者を北朝鮮に誘い込もうと企んでいるとは、知る由もない。間もなく、中年のユーゴスラビア人が「いいかね」と入ってきた。北朝鮮人は姿を消した。
 有本恵子さん(拉致被害者)ら欧州に留学したり、旅行したりしていた日本人が次々と姿を消したのは、これよりほんの少し前の時期だ。あれは、リクルートの試みだったのか、と思いついたのは、それから十年以上、後のことだ。

第二次大戦中の知られざる大虐殺

・・・