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連載

本に遇う 第258話

誰が為に五輪はある
河谷 史夫

2021年6月号

 新聞の川柳で菅義偉首相がからかわれている。〈安全で安心詐欺の芸のなさ〉。五輪を巡る対応は詐欺紛いと言われても仕方ない。福島原発メルトダウンの後始末を「アンダー・コントロール」と言い繕った安倍晋三前首相の招致演説以来、嘘で固めた五輪である。
 国会で滑稽な光景があった。野党議員の「ステージ3の感染急増、ステージ4の感染爆発の状況でも五輪を開催するのか」との質問に、菅は「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加できるようにするとともに、国民の生命と健康を守っていくのが私の責務」と述べ、「開催」とも「中止」とも明言しない。
 再質問に芸もなく同一答弁をして、これを三度、四度と繰り返す。菅はこの日、全く同じ科白を十二回も口にしたという。決まり文句を重ねてガラクタを売りつけたり、怪しげな宗教に誘い込んだりするのは、詐欺犯の手口である。
 こう指す、相手はこうくる、そこでこういく。へぼ将棋でも「三手先まで読め」というが、菅は何も考えないのであろう。下僚が下書きした「想定答弁」を棒読みするだけで、あとはおぼろの政治渡世らしい。しょせん苦労知らずの三世だっ・・・

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