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連載

をんな千一夜 第51話

故国に潰されたアスリート
石井 妙子

2021年6月号

《人見 絹枝》

オリンピックが来月、東京で開催されるという。本当だろうか? ここへ来ても気運というものが、まったく感じられない。高まるのはコロナへの恐怖と行政への不信ばかりだ。平和の祭典とは名ばかりの国威発揚と経済効果を狙ったカネまみれのイベントは、中止することも難しく、突き進むしかないのだろうか。
 オリンピック第一回大会がギリシャのアテネで開かれたのは一八九六年。十四カ国が参加したが、選手は男性に限られた。オリンピック創始者のクーベルタン男爵は「女性が参加するのは不快。女性がすべきことは出産であって、自分が記録を残すことではない。記録を残すような息子を育てること」という持論の持ち主だった。
 一九〇〇年にパリで行われた第二回大会では、テニスとゴルフに限って女性も参加することを許され、次第に馬術、水泳と門戸は広げられていったが、最後まで閉ざされていたのが、今ではオリンピックの花形種目とされる陸上競技だった。「苦痛に顔をゆがめるような競技は女性にふさわしくない。美しく見えないからだ。過酷で母体にもよくない」とい・・・