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連載

大往生考 第19話

「選別」される高齢者の命
佐野 海那斗

2021年7月号

 新型コロナウイルスの流行下では、大往生は難しい。ある老夫婦の感染、入院を通じて、それを身につまされた。
 大学の後輩の女性医師から電話があった。「主治医が積極的に治療してくれない。どうすればいいだろう」と相談された。患者は彼女の両親。八十代だ。夫は軽度の認知症と心疾患があるが普通の生活を送っていた。妻は健康だった。
 五月末、夫が発熱した。体温は三七・八度。翌日には倦怠感が増し、食事も摂れない。妻も発熱した。翌日(第三病日)に受診し、夫婦ともコロナ感染症と診断された。主治医から保健所に連絡し、地元の公立病院にその翌日(第四病日)に入院することになった。
 帰宅すると夫の状態が悪化した。妻は病院に電話したが、「保健所から指示されているので、勝手に入院日を変更できない」と取り付く島もない。やがて、夫は意識が混濁しはじめた。救急車を呼ぶ。今度は病院も断らず、夫はなんとか入院できた。妻は予定通り翌日まで待たねばならなかった。
 入院後、第七病日になって、夫の肺炎が進行し、酸素投与が必要となった。主治医は娘である私の後輩医師に電話してきた。この時のやりと・・・