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連載

《世界のキーパーソン》フランソワ=アンリ・ピノー(「ケリング」会長)

欧州芸術文化界の「大パトロン」

2021年7月号

 芸術の都パリの中心部レ・アール地区に、今年五月、現代美術の新しい殿堂がお目見えした。
 その名は、「ブルス・ドゥ・コメルス」。元は商品取引所だ。ルーブル美術館とポンピドゥー・センターはいずれも徒歩圏内である。二つの大美術館の間に、まるで割って入るような立地は、創設者ピノーとその父親フランソワの自信のほどをうかがわせる。
 新型コロナウイルス感染のさなかだが、建築家・安藤忠雄による、大胆にスペースを使った古今融合の内装が早くも評判で、パリのメディアの話題を独占中だ。在パリ大手紙特派員は、「文句なしにフランス文化の今年最大のイベントだ。パリの新しいランドマークになるのは間違いない」と言う。
 ピノーは、コングロマリット「ケリング」の創設者だ。傘下にはグッチ、サンローラン、バレンシアガ、リチャード・ジノリ(陶磁器)など欧州を代表する高級ブランドがずらりと並ぶ。
 家業の基礎を築いたのは、ピノーの父親フランソワだ。ブルターニュ地方の小さな村の生まれで、家業の木材商から、企業買収や再生事業へと手を広げ、名門デパート「プランタン」を買収した。さらにファッシ・・・