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連載

Book Reviewing Globe 447

「宙づり」になった民主主義

2021年8月号


 イワン・クラステフはブルガリアのリベラル戦略センターというシンクタンクの所長として、幅広く欧州で活躍する知識人の一人である。彼は東欧・中欧の国々に共通する「非自由主義的民主主義(illiberal democracy)」のもろさを痛いほど知っているが故に、西欧の自由民主主義(liberal demo
cracy)の危うさを鋭く嗅ぎ取る。
 クラステフは、パンデミック勃発後、母国のブルガリアに帰った。二十万人のブルガリア人が同じように故郷に帰った。
 カミュの『ペスト』の文章、「疫病が町にもたらしたものは自宅への流刑であった」の真の意味を、欧州の人々は七十年後に知ることになった。「ロックダウンという隔離は文字通り、閉ざされた社会」にほかならない。
 どの国も、移民や海外労働者を歓迎しないことを大っぴらに口にすることができる。ポピュリストたちにとっては願ってもない状況だ。「国境封鎖は地政学的ソーシャル・ディスタンシング」にほかならない。
 もっとも、コロナ危機はポピュリストたちの空虚をさらけ出す効果もあった。彼らはストロング・・・・