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連載

本に遇う 第263話

かい人21面相の暗黒
河谷 史夫

2021年11月号

 婚期―と書き出して、ふと躊躇する。いまどき婚期だなんてアナクロニズムですと、妙齢の編集者から糾弾されはしまいか。小心のわたしは恐れるのである。女性と年齢の問題は何かと厄介だ。八方に気を遣わないといけない。芯の疲れることである。
 駆け出しのころ、六十歳の女性の交通事故は、例えば平気で「老婆、はねられる」などと記事にしていたが、そのうち紙面から老婆は消えた。きっと「老女」とせよとの社内通達が出たのだろう。
「ひと」欄担当のとき、テレビのニュースキャスターから評論家に転ずるとかの女人に会いに行かされた。五十歳だというので論語の「五十ニシテ天命ヲ知ル」を絡めて綴ったら、「女性の年を暴くのはけしからぬ」との抗議がどこからか飛来して、「アニ慎マザルベケンヤ」となったことであった。
「婚期」は、映画『晩春』にまつわる。婚期を逸しかけた一人娘の原節子を嫁がせようと父親の笠智衆がやきもきする物語である。「このままお父さんといたいの……」と渋るファザコンの原を説得するように、笠が言う。
「―お父さんはもう五十六だ。お父さんの人生はもう・・・