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経済

出光を再び悩ます「創業家」

株主還元「最優先」で縮まる寿命

2022年1月号

 出光興産が今年度の上期連結決算を発表した二〇二一年十一月九日、石油業界ではこんな囁きが交わされていた。
「創業家を納得させたのは木藤さんだろう。彼しかいない」
 出光の上期の経常利益は一千九百七十億円と前年同期の赤字から急回復した。原油価格の上昇による在庫評価益一千百六億円の寄与が大きいが、それを除いても八百六十四億円と同二・七倍の増益。通期の経常利益は前年度比三・〇倍の三千三百億円を見込み、期初計画からの上振れ幅は一千九百億円に達する。が、注目されたのは好決算より株主還元だった。
 決算発表の席上、社長の木藤俊一は年百二十円の配当を継続し、業績上振れ分は「自社株買いで還元したい」と語った。さらに来年度を最終年とする二〇~二二年度の中期経営計画三カ年の間は総還元性向五〇%以上の方針を堅持すると改めて表明したのだ。
 五〇%超の株主還元―。これは創業家との約束である。思い出してほしい。出光経営陣は昭和シェル石油との経営統合をめぐって、反対する名誉会長・出光昭介ら創業家と泥沼の愛憎劇を演じ、ようやく三カ年にわたる巨額の株主還元を条件に経営統合が実現・・・